修正自公案(自公維新国民四党提案)を検討する……全面的に反対する

 ようやく、修正自公案、すなわち《性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案》を条文に即して検討した。修正自公案によってトランス女性による女湯侵入などの問題は解決されたと勘違いする人たちが出てきているが、全く事情は変わっていない。修正自公案にも、全面的に反対するものである。以下、その理由をまとめていきたい。

はじめに

 政治的分野や経済的分野と異なり、社会・文化的分野に法はむやみに立ち入るべきではない。「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」とあるが、まさしく社会・文化的分野の事柄であり、日本文化の基層と関係する部分である。それゆえ、特別なLGBT法をつくる必要はない。
百歩譲って特別なLGBT法が必要だとしても、条文自体を検討していくと、とても法律案とはなっていない出鱈目極まりないものである。法案は、第1条から第3条の総論的・理念的部分、第4条から第6条までの国などの努力義務の部分、第7条以下の施策規定の部分、という3部に分けることができる。以下、第1部から順次検討していこう。

一 第1条から第3条の総論的・理念的部分……騙しの法案

 第1条から第3条の理念的部分が中心である。この部分を読むと、法案は、3つのことを国民に対して迫っている。第一に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」を理解するように迫っている。第二に、「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」の多様性を受け入れるように迫っている。第三に「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」を理由とする差別を行わないように迫っている。

 つまり、修正案は、第一に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」に関する理解増進法である。第二に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」受け入れ強制法である。第三に「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」を理由とする差別禁止法である。法案名と第1条の出だしは理解増進法である。だが、第1条の最後の方になると受け入れ強制法になる。そして第3条になると、受け入れ強制法から差別禁止法になっていくのである。騙しの法案なのである。

 第1条、第3条という順で検討していこう。

◆(目的) 第一条 この法律は、a性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状に鑑み、b性的指向及びジェンダーアイデンティティの増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、c性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性を受け入れる精神を涵(かん)養し、もって性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とする。
 
➀本当に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」に関する国民の理解が不十分なのか

 目的を定めた第1条は、abc3つのことを述べている。aでは、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」に関する国民の理解が不十分であると上から目線で物を申している。日本人は30年遅れていると述べた米国大使の言葉を思い出させる傲慢な物言いである。同時に米国に対する卑屈な姿勢を思い起こさせる物言いである。

 しかし、この認識は正しいのだろうか。まるで間違っているのではないか。世界で最もLGBTなどの性的少数者が迫害されてこなかった国は日本ではないだろうか。今でもLGBTが非合法な国はイスラム圏を中心に世界で数多くあるし、死刑に処される国もある。欧米では合法だが、LGBTゆえに殺されたり襲われたりする例は数多い。

 こういう世界の現状を見る時、日本は最も性的少数者に寛容な国の一つであり、理解が進んだ国でもあると言えるのではないか。それゆえ、最も性的少数者に対する特別な法律が不要な国である。にもかかわらず、諸外国で特別なLGBT法を持っている国は存在しないし、本法案が成立すれば世界初の特別なLGBT法となるという。何ともおかしな話である。
 要するに、aの現状認識は間違っていると言わねばならない。それゆえ、bは不要だということになる。

②国民は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」すべてを受け入れる必要があるのか

 cを見ると、多様性とはいいことだというイデオロギーに誑かされて、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」をすべて国民は受け入れなければならないかのようなことが書かれている。

 しかし、果たしてそうか。性的少数者の代表者としてはLGBTと称されるが、よく問題とされるTと同じく、Bも問題と私は考えている。バイセクシャルゆえに就職できないとか、入学できないといった差別はもちろんよくないが、BをLやGと同レベルで保護せよという話にはならないだろう。Bは、少なくとも二人の人間と恋愛関係に入るわけであり、〈浮気はよくないことだ〉という社会通念に反する性的指向である。児童や生徒だけではなく、国民一般にすんなりと受け入れさせてはいけない多様性の一つではないか。

 更に言えば、おそらくいずれ問題になってくるだろうが、幼児性愛を多様性として認めよという主張も出てこよう。日本国民は、幼児性愛さえも受け入れなければならないのか。おかしな話ではないか。

③「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」の範囲、意味が分からない

 結局、受け入れる必要のある多様性と受け入れてはいけない多様性があるのではないか。その線引きはどうするのか。しかし、肝心の「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」の意味が分からない。だから、どこまでの多様性を理解すればよいのか、どこまでの多様性を受け入れなければならないのか、全く分からないことになる。そもそも「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」が何を指すか、全く法案には書かれていないのだ。

 欧米では、LGBTだけを保護しようというのではなく、LGBTQIA+を保護しようというところまで来ている。日本でも、「性的指向及び性同一性の多様性」とは当然にLGBTQIA+のことを指すことになると思われる。既に地方ではそうなっているのかもしれない。しかし、LGBTQIA+のことだと定義が明確になっても、QIA+とは何なのか、よくわからない。「Q」には「クェスチョニング」または「クィア=風変り」と二つの意味があるようだし、「A」は性愛に関心のない者のことらしい。そこに更に「+」が付くわけだから、尊重すべき「性的指向及び性同一性の多様性」とは一体何なのか、本当にわからなくなってくる。

 しかし、法案が通れば、差別禁止となるから、《QIA+を「差別」したから、お前は「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」を理由とする差別をしたのだ》と言われることになる可能性が出てくるわけである。

④「ジェンダーアイデンティティ」という英語は止めよ

 「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」の意味を分からなくしている大きな要因は、「ジェンダーアイデンティティ」という用語にもある。そもそも英語を法律の、それも基本的な用語として用いるべきではない。

 「ジェンダーアイデンティティ」の定義は、読んでも何のことかよくわからない。立憲・共産案、自公原案、修正案、それぞれの第2条第2項を示そう。

立憲・共産案 この法律において「性自認」とは、自己の属する性別についての認識に関する性同一性の有無又は程度に係る意識をいう。
自公原案 この法律において「性同一性」とは、自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に係る意識をいう。
自公修正案 この法律において「ジェンダーアイデンティティ」とは、自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に係る意識をいう。

 三案の定義は全く同じである。それゆえ、自公原案の「性同一性」も修正案の「ジェンダーアイデンティティ」も、立憲・共産案の「性自認」も意味は同じだともいえる。しかし、日本語としては「性自認」と「性同一性」とは対立概念となり、「ジェンダーアイデンティティ」の意味は「性自認」と「性同一性」を合わせたものとなる。それゆえ、修正案は、「性自認」だけでトランス女性として権利を持つようになる危険性を広げたわけである。

⑤「性自認」だけのトランス女性が女湯や女性用トイレに入ってくる

 「性自認」だけのトランス女性を受け入れるべき「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」の中に入れたとき、何が起こるか。よく指摘されているように、全くの男性が「私は女だ」と称して女湯に入ってくる事態、女子トイレに入ってくるケースが激増するだろう。当然、大人の女性でも危険に遭遇するわけである。

 だが、もっと問題なのは、小さな女の子の場合である。女子トイレでいたずら、殺害されるだけでなく、誘拐されてしまうケースが増加するのではないか。

◆(基本理念) 第三条 性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策は、a全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、b性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならないものであるとの認識の下に、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを旨として行われなければならない。

➀差別禁止法は絶対に作ってはいけない

 第3条はab二つのことを述べている。aではすべての性的指向又はジェンダーアイデンティティを持つ人が個人として平等であることを述べ、bでは「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」を理由とする差別の禁止が述べられている。

 「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」すべてを受け入れる必要があるのか疑問であるから、aのことも疑問だが、問題なのはbである。差別禁止を謡えば、必ず社会はぎすぎすし、反差別を名乗る活動家が人々の言動に目を光らし、言論さえも弾圧する事態が発生しよう。そしてそこらじゅうで対立混乱が発生し、国民は分断されていくことになろう。このことは、何度も経験してきたことではないか。

②差別の定義がない

 理解すべき、受け入れるべき、差別してはいけない「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」の意味、範囲が分からないのも問題だが、範囲が明確だとしても、差別に関する定義が存在しないことも問題である。差別禁止法なのに、差別の定義がないなど、言語道断である。結局、何が差別に当たるかを決めるのは、実際上LGBT活動家になっていくと言われる。

 LGBT活動家の中心には、元しばき隊などからなる日本版アンティファの人たちがいる。法が成立した後に、暴力的な糾弾活動などが活発になっていかないことを祈るのみである。

③「性自認」だけのトランス女性が法的に勝利する
 
 第3条で差別禁止とされているので、「性自認」だけのトランス女性が、女湯に入っていって女性側や施設管理者側ともめた場合、必ずトランス女性側が勝利する。いや、自称トランス女性であっても勝利するだろう。

二 第4条から第6条……国・地方公共団体、事業主・学校の努力義務

 第2部に目を移そう。第4条、第5条、第6条は次のように規定している。

◆(国の役割) 第四条 国は、前条に定める基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする。

◆(地方公共団体の役割) 第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする。

◆(事業主等の努力) 第六条 事業主は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその雇用する労働者の理解の増進に関し、普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該労働者の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする
2 学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいい、幼稚園及び特別支援学校の幼稚部を除く。以下同じ。)の設置者は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその設置する学校の児童、生徒又は学生(以下この項及び第十条第三項において「児童等」という。)の理解の増進に関し、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育又は啓発、教育環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該学校の児童等の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする


➀国や地方公共団体、事業主、学校は、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」を理解しているのか

 この第4条から第6条の部分では、傍線部にあるように、国、地方公共団体、事業主、学校が「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進」を行うとされる。条文を読む限り、国と地方公共団体は、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する」施策の策定と実施を行う。事業主と学校は、これに対して協力しなければならない。

 とともに、事業主は、自分の企業の労働者に対し、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する」理解を進めるために、普及啓発、就業環境の整備、相談機会の確保をしなければならない。学校も、児童、生徒、学生に対し、教育又は啓発、教育環境の整備、相談の機会の確保等を行わなければならない。

 しかし、法案を通そうとしている議員からして、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」すなわち保護すべき性的少数者の範囲について理解しているとは全く思われない。国や地方公共団体、ましてや、事業主や学校は、理解していないであろう。理解できるわけがない。いくら、第1条や第3条、条文全体を読んでも、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」とは何を意味するのか、全く書かれていない。結局、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」の内容(保護すべき性的少数者の範囲)は、LGBT活動家が決めていくことになると思われる。国、地方公共団体、事業所、学校総てがLGBT活動家にかき回されていくことになると思われる。

②理念法ゆえに一部の地方自治体や学校などが暴走する

 罰則もないし、理念法だから大したことはないという人がいる。だが、➀で記したように、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」の意味さえ曖昧でよくわからないわけだから、《「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」を理由とする差別は許されなくなった》ということを大義名分に、地方自治体でいろいろな解釈が行われ、「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」の範囲が拡大し、差別とされる行為の範囲も拡大していくだろう。そして、一部自治体で罰則も規定されていくだろう。学校や事業所でも過激なLGBT教育が行われるようになろう。

三 第7条以下の施策規定の部分

 第7条以下を見ると、第7条で国は施策の実施状況について毎年公表しなければならないことを規定する。第8条では国が立てるべき施策実施の基本計画のことを規定し、第9条で国が「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」の研究、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」の理解増進の施策に関する研究を行うことを規定する。そして、第10条第1項では、研究の結果得られた知識を「学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて」普及していくとされ、教育及び学習の振興、広報活動、相談体制整備などが必要であるとされる。そして、第2項では、知識の普及のために事業主がすべきこと、第3項では同じく知識普及のために学校がすべきことが記されている。そして、第11条では性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進連絡会議が、第12条では法律を実施していくときに留意すべきことが抽象的に記されている。

➀国、地方自治体、事業所、学校に大きな負担がかかる

 第4条以下、特に第7条から第10条の施策規定を見ると、多数の仕事が列記されている。国及び地方公共団体の公務員には大きな負担となろう。ただでさえ、公務員を減らしすぎたのにこなせるのであろうか。事業所や学校にしても、大きな負担となろう。

②利権が生まれ、少ない予算が食いつぶされる

 第9条を見ると、「性的指向及び性同一性の多様性に関する学術研究その他の性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の策定に必要な研究を増進するものとする」とある。確実に、LGBTQIA+に関する研究と、LGBTQIA+と関連する思想を普及する研究に金がつぎ込まれるわけである。

 この研究を基礎に、第10条第1項では、国及び地方公共団体は、国民に対して「性的指向及び性同一性の多様性」(=LGBTQIA+)に関する知識を着実に植え付けていくことになっている。「性的指向及び性同一性の多様性」をめぐる研究とその知識の着実な普及に多くの金がつぎ込まれることになろう。そして、LGBTQIA+の研究者や教育者及び「性的指向及び性同一性の多様性」に関する諸団体に大きな利権が生まれることになろう。

 しかし、国及び地方は財政赤字だということがいつも強調されて増税ラッシュが起こり、国民はますます貧困化しつつある。LGBT法案が通れば、大きな利権の発生と裏腹に、国民の貧困化に更に拍車がかかることになろう。

③児童や生徒に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」に関する教育は不要

 第10条第2項は事業所、第3項は学校に関する規定である。ほぼ同じ内容だが、特に危惧されるのは、学校に関する規定である。第10条第3項は、「学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校の児童等に対し、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるため、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育又は啓発、教育環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする」と規定している。「性的指向及び性同一性の多様性」に関する教育啓発を児童生徒などに対して行う努力義務が規定されているわけである。

 教育啓発は誰が行うのか。「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」に関して教育や指導を行える人材は、差別糾弾に熱心なLGBT活動家のなかに圧倒的に多い。それゆえ、過激な性教育が行われることになろう。

④学校と親との対立が発生する

 学校が「性的指向及び性同一性の多様性」の教育に乗り出せば、親と学校が対立する事態が生まれるだろう。アメリカでは、子供に対する「性的指向及び性同一性の多様性」に関する教育をめぐって、教師が親の関与を排除して、果ては性転換手術までやらせる事例が多発している。同じことが日本でも起こらないかと危惧するものである。確実に、「性的指向及び性同一性の多様性」に関する教育をめぐって、親と学校の対立が発生しよう。そうなれば、学校教育全般がうまく機能しなくなっていくと予想されよう。

 ともかく、性教育に学校が手を出さないスタイルの方が日本に合っているのではないだろうか。

⑤第12条は活躍できるか

 前述のように、修正案は、次のような第12条を新たに設けた。

◆(措置の実施等に当たっての留意) 第十二条 この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。

 「性自認」だけのトランス女性が女湯や女性用トイレに入れるようになることによる問題などを危惧して出てきた条文と思われるが、そんなくらいなら、そもそもLGBT法案を作らなければよい。

 それはともかく、今回の法成立により「性自認」だけで女性としての権利を得るわけだから、女湯や女性用トイレに入れることは、修正案の方が原案より明確になっている。第12条のような抽象的な内容では、到底、「性自認」だけのトランス女性を女湯や女性用トイレから排除することはできないであろう。

 以上、条文に即して問題点を指摘してきた。問題点が多すぎる。何よりも「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」を理解しろ、受け入れろ、これを理由に差別してはいけないと国民に対して命令しておきながら、肝心の「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」の意味が分からない。また、差別を禁止しておきながら差別の定義を行っていない。およそ法律の体をなしていないのである。すべからく全面撤回すべきであると述べて筆を擱くこととする。

 なお、以下に、もう一度、法案全文を掲げる。


《性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案》
(目的)
第一条 この法律は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状に鑑み、性的指向及びジェンダーアイデンティティの増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性を受け入れる精神を涵(かん)養し、もって性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とする。
 (定義)
第二条 この法律において「性的指向」とは、恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向をいう。
2 この法律において「ジェンダーアイデンティティ」とは、自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に係る意識をいう。
 (基本理念)
第三条 性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策は、全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならないものであるとの認識の下に、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを旨として行われなければならない。
 (国の役割)
第四条 国は、前条に定める基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする。
 (地方公共団体の役割)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする。
 (事業主等の努力)
第六条 事業主は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその雇用する労働者の理解の増進に関し、普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該労働者の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
2 学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいい、幼稚園及び特別支援学校の幼稚部を除く。以下同じ。)の設置者は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその設置する学校の児童、生徒又は学生(以下この項及び第十条第三項において「児童等」という。)の理解の増進に関し、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育又は啓発、教育環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該学校の児童等の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
 (施策の実施の状況の公表)
第七条 政府は、毎年一回、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の実施の状況を公表しなければならない。
 (基本計画)
第八条 政府は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する基本的な計画(以下この条において「基本計画」という。)を策定しなければならない。
2 基本計画は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解を増進するための基本的な事項その他必要な事項について定めるものとする。
3 内閣総理大臣は、基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本計画を公表しなければならない。
5 内閣総理大臣は、基本計画の案を作成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出その他必要な協力を求めることができる。
6 政府は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性をめぐる情勢の変化を勘案し、並びに性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね三年ごとに、基本計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない。
7 第三項から第五項までの規定は、基本計画の変更について準用する。
 (学術研究等)
第九条 国は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する学術研究その他の性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の策定に必要な研究を推進するものとする。
 (知識の着実な普及等)
第十条 国及び地方公共団体は、前条の研究の進捗状況を踏まえつつ、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、国民が、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めることができるよう、心身の発達に応じた教育及び学習の振興並びに広報活動等を通じた性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する知識の着実な普及、各般の問題に対応するための相談体制の整備、その他の必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
2 事業主は、その雇用する労働者に対し、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるための情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
3 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校の児童等に対し、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるため、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育又は啓発、教育環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
 (性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進連絡会議)
第十一条 政府は、内閣官房、内閣府、総務省、法務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省その他の関係行政機関の職員をもって構成する性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進連絡会議を設け、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の総合的かつ効果的な推進を図るための連絡調整を行うものとする。
(措置の実施等に当たっての留意)
第十二条 この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。

   附 則
 (施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。
 (検討)
第二条 この法律の規定については、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
 (内閣府設置法の一部改正)
第三条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
  第四条第三項第四十五号の次に次の一号を加える。
  四十五の二 性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する基本的な計画(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(令和五年法律第▼▼▼号)第八条第一項に規定するものをいう。)の策定及び推進に関すること。
     理 由
 性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性を受け入れる精神を涵(かん)養し、もって性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現に資するため、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

この記事へのコメント

すめらぎいやさか
2023年06月14日 22:10
児童や生徒に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」に関する教育を強要するLGBT法案は、児童虐待の疑いがあります。
修正案の影響で「LGBT差別法になった」などとして左翼の側も反対に回っているのでなど、ここは団結するべき場面だと思います。
理念は違っても、「廃案」「廃止」の結果があれば十分だと考えます。
ヘイト法の時も左翼は最後の方で理念法に劣化したなどとして反対しましたが、あまり連携は見られなかったと聞いています。今回は前回の反省を生かし、結果重視で行くべきだと思います。
小山先生の見解をお願いします。
小山 常実
2023年06月15日 21:38
すめらぎいやさか様

自民党と左翼の喧嘩は芝居です。左翼が批判したほうが修正自公案(維新・国民案)が良くなったという印象を流布できるからです。
 実際、自民・公明案も、立憲・共産案も、維新・国民案も全く同じ構成であり、ほとんど変わりはありませんでした。3者とも法律案の名称は理解増進法ですが、実態は性的指向などの多様性をすべて受け入れろ、差別は禁止だぞというものです。名前は理解増進法、実態は差別禁止法で国民同士を喧嘩させるものです。

 差別禁止法となってしまうと、圧倒的に左翼の天下です。彼等にはバイデンのアメリカがついているのですから。左翼にとっては、劣化と言えないこともないが、「ジェンダーアイデンティティ」と修正することによって「性自認」が明確に認められましたから、彼らの勝利ともいえるのです。そのあたり、岸田自民と左翼でプロレスをやっているのだと見えます。これも、保守層をなだめて法案を通すための芝居でしょう。
 明日、法案が通過すれば、いろいろな面で恐ろしいことになります。答えになっているか分かりませんが、以上です。
すめらぎいやさか
2023年06月30日 22:25
ありがとうございます。連絡が遅れて申し訳ないです。
LGBT法は絶対廃止ですね!