「日本解体新計画書」としての公民教科書(1)――家族教育 (『史』令和4年5月号掲載)

 『史』に《「日本解体新計画書」としての公民教科書》というシリーズで何回か連載することになった。第一回は、家族教育に関してである。以下に掲載する。「日本国憲法」は「日本崩壊のための時限爆弾」(菅原裕)という役割を持ったものであり、いわば「日本解体計画書」である。公民教科書は、「日本国憲法」をはるかに超える「解体計画」を新しく表したものなので、「日本解体計画書」とも言うべきものである。


「日本解体新計画書」としての公民教科書(1)――家族教育
                  『新しい公民教科書』代表執筆者 小山常実

 「公民教科書は常に日本を衰退させるためのカードを時代に先んじて切り続けてきた」

 「いわば、公民教科書は、『日本解体新計画書』ともいうべき役割を果たしてきた」

 右の二文は、12年前に『公民教育が抱える大問題――家族と国家が消えていく』(自由社)のあとがきで記したものである。その後、平成22年度と令和元年度の二回にわたる検定過程に立ち会って、また12年間の政治社会情勢の変化を見てきて、同じ想いを抱いた。特に、民法改正によって親から懲戒権を奪い取ろうとする策動を見ていて、その想いを強くした。親から懲戒権を奪えば、家庭教育は崩壊し、日本の家族の解体は決定的に進むだろう。私には、親の懲戒権廃止政策は、家族に関する教育を蔑ろにしてきた公民教科書の内容が関係していると見えている。

親の懲戒権を記すのは自由社のみ

 では、公民教科書は家族に関してどのような扱いをしているのか。紙数の関係もあり、ここでは、令和元(2019)年度検定合格教科書を中心にみていきたい。令和元年度検定中学校公民教科書は、自由社、育鵬社、東京書籍、日本文教出版、教育出版、帝国書院の6社である。平成16(2004)年度検定合格教科書では8社もあったから、様変わりしたものである。

 6社の家族に関する記述については、➀家族の記述量、②家族の定義、➂親と子供の関係の在り方、以上3点を検討した。➂の項目に注目してみると、親と子供の関係を指導被指導関係・保護被保護関係として捉え、親が教育権と懲戒権を持っていることを記すのは自由社だけである。他の5社は、懲戒権どころか、親が子供を教育する、あるいは指導するということさえも記さない。教育基本法10条1項と現行民法820条には親の教育権が、同822条には懲戒権が記されているにもかかわらず、そのことを教えようとはしないのだ。つまり、公民教科書は懲戒権廃止を後押ししているのだ。

家族について共同社会と記すのも自由社のみ

 それどころではない。公民教科書の立場は、家族を解体しようとするものである。②の項目について検討してみると、最も典型的な共同社会である家族について、「共同社会」ときちんと定義しているのも自由社だけである。他の5社はと言えば、「基礎的な社会集団」とするのが育鵬社と帝国書院の2社であり、東京書籍、日本文教出版、教育出版の3社は単に「社会集団」と定義するだけである。きわめて浅薄な定義である。ちなみに、国際人権規約(B規約)第23条第1項は、家族を「社会の自然かつ基礎的な単位であり」と定義し、家族が利益社会ではなく共同社会であることを明確にしている。

 それどころか、家族に関する記述量(➀の項目)について検討してみても、今や、6社中4社は、家族のために特別な単元を割くことをしない。3社は10行前後しか家族論に充てていない。教育出版に至っては、4行しか充てていないのである。家族の単元を設けているのは自由社が2単元、育鵬社が1単元であり、2社だけである。恐ろしい話である。

 細かい話をすれば、平成27(2015)年の採択戦に参加した7社の公民教科書の中では、自由社と育鵬社以外に帝国書院も家族の単元を設けていた。だが、なぜか、帝国書院は、令和2(2020)年度採択戦では家族のための特別な単元をなくしてしまったのである。

グローバリズムに立った平成20年学習指導要領

 なぜ、ここまで家族教育が無視されることになっていったのか。平成20(2008)年3月の改訂学習指導要領では、「家族」と「地域社会」という言葉が消えていた。その結果、「家族」論を展開しなくても検定合格できるようになったのである。

 歴史を振り返ると、かつては30頁も40頁も家族論に割いている教科書が存在したし、当然に家族のための単元を設けていた。だが、昭和56(1981)~58年度使用版になると平均7頁に、平成18(2006)~23年度使用版では平均3頁に減少していた。そして、平成20年指導要領とともに、一挙に家族の単元を設ける教科書が少数派になってしまったのである(拙著『安倍談話と歴史・公民教科書』自由社、2016年、246頁以下)。

 この平成20年指導要領でも29年指導要領でも、社会科と〔公民的分野〕の目標として、「グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指す」と宣言されている。

 令和元年度検定に立ち会ったとき、私はグローバリズムの押し付けを異常なまでに実感することになった。グローバリズムは、家族と国家を解体しながら前進する。もともと日本の教育では昭和20年代以来国家論は存在しないが、グローバリズムの導入に伴い、家族論も不要なものになった。その結果が、家族に関する単元の消滅という事態である。

 このように家族を軽視する教育こそが、親の懲戒権廃止という政策の背景に存在するのだと私は考えるものである。

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