自民党「日本国憲法」改正案について……緊急事態条項は長期間の内閣独裁を結果する

岸田首相は、安倍氏暗殺事件を受けて、所謂憲法改正を進めると述べた。その所謂憲法改正とは、以下の4項目の「日本国憲法」改正を行うことである。4項目とは以下のとおりである。

一、「自衛隊」の明記と「自衛の措置」の言及
二、国会や内閣の緊急事態への対応を強化
三、参議院の合区解消、各都道府県から必ず1人以上選出へ
四、教育環境の充実


 4項目のうち焦点は一と二である。一については何度も言及してきたが、二についてはきちんと自民党の改憲案を検討する暇がなかった。二は他国からの武力攻撃や内乱や地震などによる緊急事態に関する規定である。ようやく、昨日、二に関する条文を読み、内容を検討することができた。以下、その結果を記していこう。

自民党改憲案の緊急事態条項

 自民党の憲法改正草案を見ると、第9章「緊急事態」として、2つの条文を置いている。まず、二つの条文を掲げよう。傍線は、重要と思われる個所に私が引いたものである。

(緊急事態の宣言)
第 98 条
➀内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる 。
②緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない
➂内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がない と認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除し なければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日 を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
④第二項及び前項後段の国会の承認については、第60 条第2項の規定を準用する。この 場合において、同項中「30日以内」とあるのは、「5日以内」と読み替えるものとする 。


(緊急事態の宣言の効果)
第99条
①緊急事態の宣言が発せられたときは、 法律の定めるところにより、内閣は法 律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、 内閣総理大臣は財政上必要 な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
②前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認 を得なければならない 。
➂緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言 に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せら れる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第14条、 第18条 、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない 。
④緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が 効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる
①。


世界の緊急事態条項の内容

 自民党改憲案を読むとともに、西修『世界の憲法を知ろう』(海竜社、2016年)の該当箇所も読んだ。この本によれば、1990年以降にできた憲法のすべてに国家緊急事態の規定があるという。左派系の解説を見ても、一般に憲法には国家緊急事態の規定(以下、「緊急事態条項」と言う)があることは確かなことである。
 西氏によれば、世界各国の緊急事態条項の内容は以下の5点でまとめることができる。

① どんな場合に(戦争から大災害まで、近年はテロにも)
② どの機関が(通常は行政機関、ドイツは連邦議会)
③ 他機関(通常は議会)の関与・承認のもとに
④ 何を(国家緊急事態の宣言、特定の人権の宣言など)
⑤ どの程度の期間(終了時の設定)        199~200頁


緊急事態条項は100日間の内閣独裁体制を結果する

 ➀から見ると、次の4つの場合が緊急事態として考えられている。すなわち、《A我が国に対する外部からの武力攻撃》、《B内乱等による社会秩序の混乱》、《C地震等による大規模な自然災害》、《 Dその他の法律で定める緊急事態》、以上4つの場合である(98条➀)

 ②を見ると、緊急事態宣言は、閣議にかけて内閣総理大臣が発する(98条➀)。➂を見ると、関与・承認する機関は国会である(98条②他)。①から➂までは、自民党案も世界各国の条文と大体同じようなものである。

 これに対して、④⑤の点では、特異なもののようである。④から見れば、緊急事態宣言とともに、極めて大きな権限が内閣又は内閣総理大臣に与えられる。第99条➀によれば、内閣は法律と同一の効力を有する政令の制定権を与えられる。内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分権、地方自治体の長に対する必要な指示権を与えられる。そして、第99条➂項によれば、緊急事態宣言の期間中は、国民に対する基本的人権の制限が行われることになる。他国と比べた場合、特に法律と同等の政令制定権という大きな権力が内閣に与えられていることが特異であるし、問題であると言えよう。西氏もこの点は問題だと指摘している(209頁)。これだけ内閣又は総理大臣が権力を握れば、緊急事態宣言中は内閣独裁の体制だと言っても過言ではないだろう。

 しかし、一番問題なのは⑤である。内閣独裁を行なえる緊急事態宣言の期間が長すぎるのだ。緊急事態宣言は、国会の承認を得なければならないが、事前でも事後でもよい(第98条②)から、内閣だけの判断で緊急事態宣言を発し、100日間の内閣独裁体制に入ることができる(第98条➂)。その後は、100日間ごとに事前に国会の承認を得なければならない(同)。もちろん、100日経たなくても、国会が積極的に動いて緊急事態宣言について不承認の議決、又は宣言を解除すべきとの決議を行ったときは、緊急事態宣言を解除しなければならないことにはなっている(同)。

 とはいえ、議院内閣制だから議会の多数派と政権与党が同一であり、小選挙区制採用以来、自民党が内閣よりも著しく弱体化している状態では、国会による内閣に対するチェックがほとんど機能しそうもないといえる。それゆえ、100日間の緊急事態宣言期間すなわち内閣独裁の期間が否応なく生まれることになろう。西氏も、100日間は長すぎるのではないかと指摘している(209頁)。

 私は憲法には本来緊急事態条項が必要だと考えるものだが、自民党改憲案は、内閣独裁の程度が激しすぎるものである。まずはその点で、自民党の緊急事態条項案に反対するものである。

緊急事態条項は更なる日本の植民地化を招く

 しかし、更にもっと本質的な反対理由がある。この10年間ほどの日本政治を見ていると、特に2020年以来のコロナ禍の日本政治を見ていると、つくづく日本はアメリカの属国又は植民地であり、またアメリカを支配している国際金融資本家(ディープステートと言ってもよい)の植民地であるということを実感した。

 諸外国では、コロナ禍の中で激しいロックダウンが行われ、必要もないワクチンが強制的に打たれ続け、ワクチンを打たない者に対する激しい弾圧が行われた。著しい人権弾圧が行われた。その根拠に使われたのが、緊急事態条項であった。

 これに対して、日本でもワクチン強制は半ば実際上行われたが、それでもロックダウンは行われなかったし、ワクチン義務化まではいかなかったし、人権侵害の程度は諸外国に比べて低かった。日本の政治家及び日本国民の性格も一つの理由であったろうが、その一番の理由は、明らかに、日本に於て緊急事態条項がないことであった。もしも、緊急事態条項が出来上がれば、内閣独裁体制を利用して、日本を更にストレートにアメリカ又は国際金融資本家の意思通り動く属国又は植民地にしていく動きが強まることになろう。これが二番目の反対理由である。

緊急事態条項制定の前に自衛戦力と交戦権を肯定せよ

 日本の属国又は植民地の程度は、諸外国と比べて際立ったものがある。その理由は明確である。自衛戦力と交戦権を保有していないことである。両者を保有していない日本は、日米合同委員会などを通じて恒常的に「言うことを聞かないと守ってやらないぞ」という脅しを受け続けている。だから、緊急事態条項の整備以前に、自衛戦力と交戦権を肯定して属国又は植民地の状態から少なくとも諸外国並みに抜け出すことが必要なのである。

 それゆえ、まずは自衛戦力と交戦権を肯定せよ、と私は言いたい。その方法としては、9条解釈の転換を主張する。そして、自主防衛体制を築いてから緊急事態条項を整備せよ、と主張する。自衛戦力と交戦権の肯定は、あまりにも当たり前のことである。

 このように、自衛戦力と交戦権を肯定する前に緊急事態条項を制定しようとする順序の悪さも大きな問題である。これが第三の反対理由である。

 
 他にも、更に本質的な反対理由が二つある。一つは、憲法改正は帝国憲法改正という形で行うべきものであり、「日本国憲法」改正という形式をとってはならないことである。もう一つは、改正条項として提案されない前文や第一条の内容を日本人が肯定してしまう結果を招くことである。仮に素晴らしい内容の緊急事態条項が可決されたとしても、そのプラス点は、決して前文の日本人差別思想肯定のマイナス点を上回ることはないであろう。

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