北野幸伯『「自立国家」日本の創り方』を読んで――トップの依存心が国を滅ぼす、「日本国憲法」第9条と前文の問題を始末せよ、

初版はアメリカの没落を予言した

 北野幸伯『「自立国家」日本の創り方』(ダイレクト出版、2020年)を読んだ。本書は、『隷属国家日本の岐路――今度は中国の天領になるのか?』(ダイヤモンド社、2008年)に2000年時点からの補足を付けて出された改訂版である。初版である『隷属国家日本の岐路』が出された日時は正確には2008年9月4日であり、アメリカの没落が始まった9月15日のリーマンショック直前であった。北野氏は、初版の中で、3つの予言を的中させたという。一つはアメリカ没落、二つは日本に親中政権(民主党政権のこと)が誕生したこと、三つは尖閣問題から日中対立が劇化するということである。

個々の国民が本書のような問題意識を身に付ける必要がある

 予測が的中したからでもないが、本書は何よりも岸田首相に読んでほしい本である。あるいは政治家や官僚に読んでほしい本である。本書は、『「自立国家」日本の創り方』というタイトルから伺われる通り、日本を自立国家に変えるためにどうしたらよいか、その要点を簡潔に体系的に示した本である。一言でいえば、本書は、序章や第5章に特に現れているが、アメリカに対する依存心を払拭し、アメリカの真似ではなく日本に合った日本流の進み方をすべきだと主張した本である。そして第1章から第5章では、具体的な自立国家の創り方を示している。ここでは、なかなか面白い策も示されている。トータルで、政治家や官僚にとって非常に参考になると思われる。

 内容的に政治家や官僚にこそ読んでほしい本であるが、彼等には自立国家を創る気がほとんど失われてしまっている。相当多数の国民が、少なくとも3割程度の国民が本書のような問題意識を持つようにならなければならないのではないか。国民の意識が深化・進化して初めて政治家たちの意識も深化・進化していくという事態が起きるように思われるからだ。以下、特に気になった箇所に注目して、本書を紹介していきたい。まずは目次として、章タイトルと一部の気になった小見出しを掲げよう。

改訂にあたって 2020年版の序文
序章
 アメリカ没落後、日本は……
 崩壊するドル体制
 トップの依存心が国を亡ぼす
 日本が自立するために
第1章 移民労働者大量受け入れに反対!
 フランス方式
  サービス残業の禁止を
  3K移民大量受け入れで少子化問題は解決するか?
3K移民受け入れで日本に起こる問題
  労働人口の減少より生産性向上のほうが速い
第2章 平和ボケ 外交音痴 日本の行く末
  外交とは何か
  「金儲け」意識ゼロの日本
  なぜ日本は外交音痴になったか?
  日本国は慈善団体
アジア共同体は50年早い
  南シナ海・東シナ海は軍事的にも重要
第3章 食料危機をどう乗り切る?
  食料安保論と食料自由貿易論
  自給率を高める=米の需要を増やすこと
  食生活の変化には理由があった
マクドナルドを定着させた藤田田氏の長期戦略
完全米飯給食が米の需要を引き上げる
第4章 世界一教育熱心な国 日本が失った”教育”
ユダヤの秘密は「教育」
教育熱心だった日本
「学ぶ」の意味
ロシア復活の原動力
創造力の必要性
「仕事が面白い」から創造的になれる
倹約の大切さを教える
第5章 脱アメリカ信仰! 日本は世界から愛されている
  アメリカ信仰への疑問
  アメリカに負けつづける日本
  日本を覆う罪悪感
  日本人は悪い民族?
洗脳からの脱却
  日本が世界とアメリカを支えている
  日本は世界から嫌われている?
国際貢献とはアメリカに従うことなのか?
  薄利多売方式からの脱却
  「認知」の欲求を満たす
  高品質・高価格が企業と社員の幸福
おわりに 私には夢がある



序章
トップの依存心が国を滅ぼす――自立心の回復を

 序章から順に見ていこう。上に抜き出した序章の小見出し「アメリカ没落後、日本は……」と「崩壊するドル体制」といったものから知られるように、本書はドルを基軸通貨としたドル体制は崩壊し、アメリカは没落すると予言している。

 次いで「トップの依存心が国を滅ぼす」という小見出しの下、アメリカが没落するとどうなるか記されている。世界経済が大混乱するのは当然だが、日本の安全保障面についていえば、アメリカには日本を守る余力はなくなってしまう。それならば、自分の国は自分で守ればいいのだが、そうはならないだろうと予測される。なぜならば、日本は、中国やロシア、インド、西欧諸国などのような「自立国家」ではなく、「依存国家」だからである。

 「自立国家」は自分自身が物事の決定を下すが、「依存国家」は自分で物事を決められず他者の判断に従い他者の決定に従い行動する。日本はまさしく、「アメリカの『依存国家』」であり続けてきた。元々は軍事的にアメリカに従属しているから「依存国家」になったのかもしれないが、特に1980年代以降、内面的に心の底から自立心を失い、「依存心の塊」になってしまっている。北野氏は次の様に述べている。

今の日本のトップは、ほとんどが「依存心の塊」でしょう。もしアメリカが没落した時、日本のトップが自分で何も決定できない「依存首相」だったらどうなるでしょうか
「次の依存先」を求めることになるでしょう。
「依存が癖になっている私は、何も決められません。『あなた』が全部決めてください」
では、アメリカに代わる次の依存先はどの国か?
これは「中国」になるでしょう。          32頁


 二つの傍線部に注目されたい。日本に関する重要な決定はすべてワシントンが決めてきた。日本はそれに慣れすぎて自分で物事を考えなくなり、自己決定する意思を無くしてしまっている。国のトップに行けば行くほどそうなっている。しかも、今日、最初の傍線部にあるような「依存首相」の中の「依存首相」がトップに存在することに戦慄しなければならない。まさしく、アメリカが更に没落していくならば、すんなりと「中国の『依存国家』」になっていってしまいそうである。アメリカから中国に売り渡されてしまうことも考えられよう。元は安全保障問題が原因であっただろうが、今は「自立心」の欠如が第一原因であろう。それゆえ、「自立国家」日本の創り方で最も重要なのは、「依存心」の払拭と「自立心」の回復ということになろう。

自立心の欠如は9条に由来する

 ここまで書いてきて、「日本国憲法」第9条のことに思い至らざるを得ない。第9条によって、日本は戦力も交戦権も持てなくなったと一般的には解釈され、自主防衛体制を構築できなくなった。その結果、国防をアメリカに依存する形で戦後70年以上の月日を過ごしてきた。この軍事的な従属こそが、アメリカに逆らえない日本、自分の頭で考えずアメリカの決定に唯々諾々と従う日本を根本的に生みだしてきた。明らかに、第9条の存在と戦力・交戦権否定説による第9条解釈こそが、「依存国家」日本を生み出してきた第一原因である。その意味では、「自立国家」日本を生み出すために必要な策は、やはり第9条問題の解決であると言えよう。
 
「崩壊するドル体制」

 話をドル体制の崩壊問題に戻すと、「崩壊するドル体制」の小見出し部分では、ドル体制に挑戦する国の動きが記されている。1991年にソ連が崩壊してアメリカ一極時代が訪れるが、1999年、ドルへの有力な挑戦者となったユーロが導入された。すると、イラクのサダム・フセインは、2000年9月、「イラク原油の決済通貨をドルからユーロに変える!」と宣言し、実際に同年11月にユーロに石油取引を転換した。北野氏によれば、この宣言こそが、イラク戦争をアメリカが起こした本当の原因であった。アメリカは、何とかイラクを叩き潰したものの、2007年、イランは、原油の決済通貨をドルからユーロと円に変化させる。アメリカのイランに対する厳しさはここから生まれている。

 サウジアラビア・アラブ首長国連邦などからなる湾岸協力会議も通貨統合の目標を掲げ、ロシアはルーブルを世界通貨にしようと計画し、2006年にはルーブルによる石油取引も始めている。他にも、南米共同体や東アフリカ共同体が共通通貨導入を目指している(19~24頁)。

 堤氏の本に続いて本書を読み、今回の戦争における対ロシア経済制裁が思ったよりも効かない理由がより分かった気がした。ドル決済システムへの挑戦が既に20年前から行われ続けているし、しかも、挑戦するグループがこれだけ多数存在するならば、すんなりとは効かないわけである。

 またウクライナ戦争との関連でもう一つ思ったことがある。戦争をめぐる独仏伊といったEU主要国と米英の温度差のことである。ドルにとって一番の敵、ドル基軸体制を揺るがす本質的な敵はユーロである。明らかに戦争拡大に熱心なのは米英であり、早く戦争を収めたいのは独仏伊のEU主要国である。この温度差は、ドル対ユーロの戦いとみれば、わかりやすくなるのであろうか。

第1章から第5章
移民労働者大量受け入れはやめよ

 話しを「自立国家」日本の創り方に戻すと、第1章から第5章までで、自立国家の創り方に関する具体論が展開される。第1章では少子化問題に対する対策が取り上げられているが、対策の基本は、今の日本が進めるような移民労働者大量受け入れではないとする。特に3K移民大量受け入れは、西欧やアメリカの経験からわかるように治安などの多数の問題を引き起こすからやめた方がよいとする。北野氏は、起こる問題として5つ挙げている。

1 日本人失業者の増加と賃金水準の低下
2 差別意識の高まり
3 民族主義の高まり
4 生産性の停滞
5 移民のマフィア化
6 治安の悪化            59~60頁


 それゆえ、移民を入れるならば、「日本人が尊敬できる外国人をどんどん受け入れること」が不可欠だという。そうすることが日本の中で日本人と外国人が仲良く暮らせる条件だという。

外交の定義を国際標準に変更せよ――金儲けと安全の確保が外交上の国益

 第2章に入ると、外交問題が対象になっている。ここには面白いことが二つ書いてある。まず、「外交とは何か?」との小見出しの下、氏は次のように言う。
 
 私は常々、「外交とは国益を追求する手段である」「そして(外交上の国益)とは金儲けと安全の確保である」と書いています。
 「え~、外交は金儲けのためにしているのですか!?」
 大部分の人は驚きます。これが「日本の常識は世界の非常識」といわれる所以。 80頁


 この後、アメリカの例を挙げたうえで、「日本以外の国々は、日々金儲けのために外交をしている」(82頁)と述べている。金儲けと安全の確保が外交上の国益だという定義は、言われてみれば当然だと思うが、意外であった。安全の確保という点は当然だが、金儲けという点が意外に感じたのである。虚学の世界で生きてきた私の限界であろう。

 しかし、日本政府には、「金儲け」意識はゼロである。日本以外のすべての国は「企業」であるのに対し、「日本国は慈善団体」である。

 これではだめで、日本政府も、「金儲け外交」をすべきだという。企業にとっての「金儲け」ではなく、国にとっての「金儲け外交」をすべきだという。日本が儲かるには、「輸出を増やし」「投資を呼び込む」ことである。日本企業が出ていかないこと、外国企業が来たい環境づくりをすることだという(88~91頁)。

中国からの脅威に備えるための対米工作――尖閣周辺の日米共同開発

 ともかく、外交上の国益として金儲け(あくまで企業ではなく国全体の金儲け)を上げる点が面白かった。また、もう一つの外交上の国益である〈安全の確保〉を中国から図る策が面白かった。まず、北野氏は、「中国が『日本に無礼なことをすれば、アメリカは黙っていない』と信じている間、日本は安全なのです」(110頁)とする。そのとおりである。

 そこで、中国の脅威をおさえるために、対米工作を提案する。アメリカにたくさんいる中国を脅威と認識する政治家や学者に金をばらまいて、日米安保はアメリカの国益、中国はアメリカの最大の脅威だとテレビで語ってもらう。雑誌に寄稿してもらう。更に、尖閣関係で何かあっときには、有力政治家に「日中で有事があれば、アメリカは黙っていない」と声明を出してもらう。

 言論だけではない。尖閣周辺の油田・ガス田の日米共同開発の提案も行っている。「51%をアメリカに持たせておけば、米軍がガス田・油田周辺を警護するいい口実になる」(110頁)。こうなれば、没落してきたとはいえ、まだまだ世界一の軍事力をもつアメリカに対して、中国も手を出せなくなると思われる。

完全米飯給食の提案

 次に第3章では、食糧危機対策が語られる。対策としては、食糧安保論と食料自由貿易論が対立しているとしたうえで、氏は、食糧安保論がよいとする。食糧自給率の低い国は、餓死の危機に直面するからである。

 自給率を高めるために、かつての半分にまで落ちてしまった米の消費を増やす、そのために完全米飯給食を実現するという対策を示している。端的には、パン食を米食に戻すということである。給食で米飯に慣れ親しんだ子供たちは大人になっても米飯を食べるし、その子供たちにも米飯を食べさせることになる。

 こうして、国産のものを中心に食べるようにさせることで、自給率アップを図ろうというわけである。

記憶→創造力、仕事が面白い→創造力

 第4章では、教育対策が記される。ユダヤ人の成功の秘密は教育にあると記したうえで、日本人もユダヤ人と同じく教育熱心であるとする。そこに北野氏は希望を見いだしている。しかし、氏にとっては、現代の教育のやり方はおかしい。

 創造性、創造力と言われるが、まずは記憶が重要だという。「創造力は、その分野に必要なことを全て記憶した後に出てくる」(165頁)からである。記憶→創造力という順序を踏まえなければならないのである。

 もう一つ、氏は「仕事が面白い」ということが大事だという。仕事が面白ければ、その仕事をすることを通して創造力が身についてくるからである。仕事が面白い→創造力という順序も重要だということになる。 

アメリカ信仰から脱却せよ

 最後に第5章では、序章とともに、最も本質的なことを記している。序章でアメリカへの依存心からの脱却を説いた北野氏は、第5章では、アメリカ信仰から脱却せよと説いている。日本政府は、アメリカを目指し、アメリカの後を、どんなことでも後追いしようとしている。

 なぜ、アメリカを目指すのだろうか。3つの理由がある。
(1)日本はアメリカより劣っていると考えている
(2)アメリカは素晴らしいと考えている
(3)国際世論は自由と民主主義を伝播するアメリカ支持だと思っている

 日本は江戸末期の開国、敗戦、バブル崩壊と3回アメリカと戦って、3回とも負けたので、(1)のことが出てくる一定の必然性はあると言える。しかし、「日本はアメリカより劣っている」と考えるのは、実は、「そう考えさせられている」のである。それが根本的な理由である。

 では、「そう考えさせられている」本質的な理由は何か。通常、他の国の人たちは、宗教か歴史を拠り所に生きている。ところが、戦後の日本人は拠り所となるべき宗教も歴史も否定されたのである。歴史否定にあたっては、日本人は悪い民族だという洗脳教育が効果を発揮したが、本書はこの洗脳から抜けだすべきことを説いている。要するに、「日本はアメリカより劣っている」と考える必要はないのである。

 次に(2)(3)であるが、湾岸戦争と2003年のイラク戦争を比べればわかるように、湾岸戦争はイラクのクウェート侵攻は「誰がどう見ても悪いこと」だったし、国連安保理でも国際世論でも、アメリカに支持が集まっていた。これに対して、イラク戦争の場合は、攻撃理由が嘘から成り立っていたし、安保理のフランス、ロシア、中国の3常任理事国が反対していた。国際世論は分裂していたのである。

 少なくとも、このイラク戦争以来、アメリカは「すばらしい」とは言えなくなったし、国際世論の方もそのように認識するようになっている。一応アメリカに付き従う国家は多数存在するが、日本以外はみな、アメリカのインチキに気付いている。(2)(3)の考えはもはややめるべきである。

宗教も歴史もない「日本国前文」の思想を廃棄せよ

 なお、三段落前で戦後日本は宗教と歴史を否定されたという点にふれているが、この背景には、「日本国憲法」前文が関係している。通常の国の憲法前文には、憲法を根拠づけるものとしては、宗教か歴史が用いられている。だが、「日本国憲法」前文には、そのいずれも出てこない。しかも、前文には、日本及び日本人を諸外国よりも下位に位置づける日本人差別思想が表明されている(拙著『「日本国憲法」無効論』草思社、2002年、第一章)。明らかに、前文が大きな根拠となって、「日本はアメリカより劣っている」と「考えさせられている」のである。北野氏は特に「日本国憲法」の問題を取り上げないけれども、9条問題(自衛戦力・交戦権問題)と前文問題(宗教・歴史の否定、日本人差別の問題)の解決が必要であると強く思った次第である。
  
  転載自由












この記事へのコメント