親の懲戒権廃止と児相への一時保護問題、備忘のための追記二点……虐待の原因は貧困化にある、虐待死は減少している

大久保真紀『ルポ 児童相談所』(朝日新書、2018年)、慎泰俊『ルポ児童相談所』(ちくま新書、2017年1月)、楢原真也『児童養護施設で暮らすということ』(日本評論社、2021年)の三冊を読んだ。大久保氏の著作は、虐待問題を取材し続けた氏が、児童相談所の児童福祉司(ワーカー)に密着して書いたものである。特に、一番大きな問題である一時保護問題に焦点を当てて記した書である。

慎氏の著作は、児相に一時保護された子供たちが保護期間中暮らし続ける一時保護所に、氏が実際に住み込んだ上で記した書である。一時保護所の中の子どもの生活と、指導員・保育士の職務に焦点を当てて記した書である。

楢原氏の著作は、児童養護施設で心理職として勤めていた氏が、自己の体験を基に、養護施設での生活について記したものである。
いずれの書物も面白かったし、それぞれの職務の大変さ、特に児童福祉司の大変さはよく伝わってきた。そのうえで、児相問題と親の親権・懲戒権の問題について、少し認識が深まった気がするので、特に一時保護問題に焦点を当てて、問題を整理・確認しておきたい。

親の意向に反する一時保護は「拉致」

 三冊、特に大久保氏の著作を読んで思ったのは、親の意向に反する一時保護は、少なくとも親又は子供にとっては拉致以外の何物でもないということだ。『児相利権』の第5章で紹介されていた晃華学園事件のケースは騙し討ちで子供をさらっていく方法をとっており、拉致という感じの一時保護であった。だが、『児相利権』は児相批判の急先鋒の書であるから、拉致という感じの一時保護は、それほど一般的な方法ではないのかもしれないとも考えた。しかし、児相に深く思い入れをした大久保氏の本にも、いくつも拉致のような一時保護の例が多数挙がっている。

例えば、母親がゼロ歳児の赤ちゃんを家に放置して出かけており、赤ちゃんを保護したケースが挙げられている。児童福祉司2人が家に向かい、一人が母親から話を聞いている間にもう一人が「赤ちゃんを抱っこ。そのまま、家の外に出た」(29頁)。外で待機していた職員に赤ちゃんを渡した。その職員は、児相に赤ちゃん保護を電話連絡し、「一時保護先の場所を教えてもらい、そこに向けて車を発進させた」(同)。そのあと、児童福祉司は、母親に一時保護したことを伝える。一時間後に仕事先から家に戻ってきた父親は、一時保護されたことを知り激怒し、「部屋に入ってくるなり、手にしていたヘルメットを床に投げつけた」(30頁)という。

 児相側の行為は合法であるし、現行制度の中では必要な措置である。しかし、このケースにおける親側からすれば、そもそも一時保護に反対であるし、しかも、何の断りもなく、赤ちゃんが連れ去られているわけである。親側からすれば、拉致されたように感じるのは当然であろう。

慎氏の本には、一時保護所に入れられた子供が騙されたと語る例が挙げられている。

児相の人が「二、三日だけでも来ない?」と言われました。「二、三日なら」と思って「はい」と言ったら、一時保護所に連れていかれた。そして、私はそこに四カ月いました。騙されたと思っていて、長い間根に持っていました。 66頁

一時保護所での日課……収容所のような生活

 一時保護されたならば、子供は、場合によっては一時保護委託という形で親や養護施設で一時保護されることもあるが、多くの場合、児相併設の一時保護所で生活することになる。一時保護所での生活については、慎氏の本が記している。一時保護所に住み込む体験をしながらも、一時保護所を中心とした児相に関して、その欠点も含めて客観的にまとめていると感じた本である。

 それはともかく、慎氏の本に基づき、一時保護所での生活についてまとめておこう。慎氏によれば、児童相談所は、全国に208カ所存在し、分室や支所を含めると228存在する(2015年4月1日現在)。2014年の職員総数は1万407人である。

 一時保護を引き受ける一時保護所は、ほとんどの場合、児童相談所に併設されている。ただし、すべての児相に併設されているわけではなく、2015年4月現在、135存在する。年間で一時保護所に来る子供は、約2万人である。

一時保護の期間は、平均して1月であるが、都市部では平均40日以上、多い子で数か月になる。一年を超える子もいる。氏は、10カ所弱の一時保護所を訪問し、住み込みなどの体験も含めて、保護所での時間を過ごした。それら10カ所弱の保護所の観察を基にして、都心にある「X一時保護所」での子どもたちの一日というものを描いている。X一時保護所は、定員30名、25名の実員である。窓は5センチメートルほどしか開かなくなっている。子供たちの脱走を防ぐためである。

 同じく脱走を防ぐ観点から、子供たちは、裸足でも靴でもなく靴下をはいて過ごさなければならない。逆に職員たちは全員スニーカーをはいている。こうすれば、子供は逃げ出しにくくなるし、逃げても捕まえやすくなるからである。

 さて、その日課を示すならば、以下のようになる。

朝6時50分 施設全体が暗い。
7時    職員たちが電気を一斉につけ。起床。
7時5分 子供たちは、全員布団をたたんで寝室から出る。
8時 朝ごはん
    朝ごはん後、歯磨き
8時50分、読書の時間。ほとんどが漫画
1回45分の学習時間が一日3回……プリントを解く程度
13時半から体育の時間など
15時から、おやつの時間。食堂で
その後、自由時間。一人ずつ入浴。15分程度。代る代る25人全員。
掃除の割り当て。
18時、夕食
18時半、一日の振り返りの時間。日記を書く。
その後、最後の自由時間
幼児は19時半に部屋へ。
他の子は20時に部屋へ入る。
21時に小学生、中高生は22時、完全消灯。
そのあとも、職員はしばらくの間、部屋の外で、無言でたっている。 30~50頁


 付言するならば、一時保護所での生活は、何事も「お願い」しないとできない。トイレに行くときも「トイレに行って来ていいですか」、テレビを見たい時も「テレビをつけてください」とお願いしなければならない。また、性関連のトラブルを避けるためであるが、男女交流をさせない。男子と女子は口をきくこともない。

 このように、子供たちは威圧的な空間で厳しく管理されている。収容所での生活のようだ。

 他方、宿直の職員の方も、交代で仮眠をとりながら日誌を書く。「真夜中に虐待通告の電話が鳴れば、電話当番の職員とともに対応する」(50頁)。警察が子供を連れてくることもある。職員たちもなかなか気が休まらないで勤務しているのである。

精神安定剤を飲まされる子供

 なお、「X一時保護所」では、一定数の子どもたちが精神安定剤を飲んでいるとされる。飲まないと荒れて他の子どもに暴力をふるうこともあるからという理由からであるが、『児相利権』にも投薬のことが書かれていたが、薬漬けという実態を一定程度うかがわせる記述である。
 
 ただし、「X一時保護所」のような閉鎖的、威圧的な保護所ばかりではない。もっと開放的な保護所も一定数あるようだ(53~56頁)。

一時保護所の生活の問題点1、移動の自由が認められない

 以上のような一時保護所での生活は、多くの問題をはらんでいる。何よりも、ほとんどの一時保護所では外出が許されない。移動の自由は基本的に制限されている。同年代の子どもへの連絡も禁止されている。指導員や保育士との外出も、「病院に行く」といった場合のみである。外出の頻度は、2,3か月に一度くらいだという。外出ができない理由は、子供の安全のために親に連れ戻されないようにするため等だという(69~74頁)。移動の自由という基本的人権が、侵害されているのである。

問題点2、学習権の侵害

 外出が禁止されるから、学校にも行けなくなる。ほとんどの一時保護所で、そういう扱いとなる。学校に通うことを許された子供は100人に一人だという。それゆえ、学業は決定的に遅れていくことになる。

 一時保護期間中の出欠扱いはと言えば、小中学は6割5分が出席扱い、高校は1割だけ出席扱いとなる。それゆえ、小中学校は義務教育でもあり卒業できるが、高校は出席不足で留年せざるを得なくなる(74~78頁)。「一時保護」された子供は、学習の上で、決定的に不利な立場に立たされるのである。明確な学習権の侵害である。親の親権に対する侵害が成立しない場合であっても、学習権の侵害は明確に成立するのではないか。

問題点3、一時保護の長期化=一時保護が「虐待」化する

 他にも多くの問題がある。私物のもちこみが許されない。私服はだめで、保護所内においてある服を選ぶ。おもちゃやぬいぐるみも持ち込めない。食事中の私語は禁止される。携帯電話は一時的に没収され、通信は遮断される。手紙は許されるが、家族へは8割、先生へは6割、友人へは1割の保護所が許可しているだけである。ともかく、極めて窮屈な生活ルールが課されるわけである(78~81頁)。

 しかし、一番の問題は、一時保護という名の人身拘束が長すぎることである。一時保護は2,3日から数日、一週間頃までが限界ではないか。慎氏の本には、「私であっても、携帯電話を取り上げられて、閉じ込められた場所で生活していると、一週間で気が狂うと思う」との一時保護所の課長の言葉が紹介されている(96頁)。

  慎氏の書によれば、一時保護期間が、近年長期化している。2003年は平均20.4日だったのに、2013年には29日に伸びている。多くの都市部の保護所では、一年を超える子が必ず一人か二人いる。関東のほとんどの保護所では40日強、横須賀市は61.2日となっている(97~99頁)。
 
 一時保護が長期化しているにもかかわらず、保護期間が終了する3日ほど前になって突然、保護所の退所と次に行く場所について知らされる。一時保護が終われば、半数の子どもは家庭に戻り、一部は病院に、残り4割は児童養護施設などの社会的養護に入ることになる(107頁)。その間何も知らされないで不安な気持ちで、子供たちは過ごさなければならないわけである。それゆえ、慎氏は、子供たちの知る権利が侵害されていると指摘している(同)。

 29日とか40日も一時保護されれば、しかも不安で落ち着かない状態で過ごすことになれば、子供の精神的成長に悪影響を及ぼす。長い一時保護は、それだけで種々の基本的人権を侵害する大きな問題だと言えよう。端的に言えば、一時保護自体が、特に長期の一時保護自体が「虐待」に該当することになるわけである。であるならば、「虐待」を防止するために行う措置がまた「虐待」にあたるとなれば、何をやっているのかということになろう。

 さらに言うならば、一時保護を終えた後に施設入所した場合についていえば、施設内虐待の問題もある。少ない例かもしれないが、このケースにフォーカスするならば、親から「虐待」を受けていたとしても、長期の一時保護を受けて更に施設内で虐待を受けるならば、何のための一時保護なのかという見方もできよう。

親の懲戒権が廃止されれば、不要・不当な「一時保護」が増加する

 以上、一時保護についてみてきたが、どうも不要な「一時保護」があること、特に期間が長すぎるということを指摘することができる。不要な、あるいは不当な「一時保護」は、前回までの記事でも確認してきたところである。前回まで見てきたように、親による「虐待」をデッチ上げて子供を学校や病院が児相に渡してしまうケースが既に存在している。その場合、「親が虐待しているから一時保護するべきである」という理屈が使われてきた。もちろん、この理屈が正しい場合もあるわけだが、この理屈が学校や病院のミスを隠蔽するための道具に使用される場合もあるわけである。ここに親の懲戒権が廃止される事態になれば、単なる有形力の行使が「虐待」と認定されるどころか、厳しい𠮟責なども「虐待」と認定されるケースが増大することになろう。そうなれば、親による教育は成り立たなくなるばかりか、不要な、あるいは不当な「一時保護」が増加し、子供の基本的人権も親の親権も侵害され続けることになろう。


 本記事は、親の懲戒権廃止と一時保護問題との関連を考察することを目的としたものであるから、このあたりで筆を擱いてもよいわけだが、一時保護には余りにも問題があるので、どう改善すべきか簡単に触れておきたい。
 何よりも必要なのは、一時保護とは、子供に対する人身拘束であること、親の親権に対する制限行為であることを明確に意識することである。この基本的な認識の上に、適正な手続き規定を工夫することである。特に何よりも、慎氏が指摘しているように、児相が家庭介入と家庭支援を行う現在の体制を変え、両者を担う機関を分けることである。具体的には、最初の一時保護の時点から、一時保護の決定を裁判所などに任せることである。そうすれば、一時保護するか否かの決定が早くなるし、児相が家庭支援を今よりはスムーズにできるようになるからである(148~149頁)。

  転載自由備忘のための追記二点……虐待の原因は貧困化にある、虐待死は減少している

 この数年間の社会的雰囲気は、子供の虐待死は増加してきており、その原因は親の懲戒権だというものであった。その社会的雰囲気に乗って、民法改正が提起されているわけだ。しかし、慎氏の著書にも出てくるが、児童虐待の第一原因は、日本における貧困の拡大にある(慎氏本154頁以下)。それゆえ、何よりもすべき「虐待死」対策、「虐待」対策は、日本経済の立て直しであろう。この経済再建を、日本政府はまるでやる気がない。緊縮財政で日本経済を駄目にしてきた結果が、「虐待」の増加であり、悲惨な「虐待死」の発生である。

 しかし、「虐待」は確かに増加したのかもしれないが、虐待死が増加したというのは、事実に反するようだ。『児相利権』でも指摘されていたが、慎氏の著作によれば、児童虐待相談対応件数は、増加の一途をたどり、2015年に10万件を超えたが、「虐待死」が100件を超えたのは2006年から2008年までのみである。その後減ってきており、2013年の統計では69件にまで減少している(163~164頁)。
 ネットで検索してみたところ、2021年の「虐待死」は54件である。減少傾向にあるのは間違いないようだ。
https://www.bing.com/ck/a?!&&p=65d82231849be5d796b37577b898b3f5a8258cf7f299a32cea271810516f65c8JmltdHM9MTY1MjU4NjEyOSZpZ3VpZD02ZTRmZWQ5Yy0xYjBmLTRlZTctOGQ0MS1mNTcwNjUzMjYwZWMmaW5zaWQ9NTI4MA&ptn=3&fclid=ff512243-d400-11ec-9fc9-c0d48cdb6815&u=a1aHR0cHM6Ly9uZXdzLnlhaG9vLmNvLmpwL2FydGljbGVzL2RkNmM5ZDZhOWMzNzg2ZmI5ZmZiOGMyOGE2ODk2NmMxZTc1NzAzZDE&ntb=1
 
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