学校からの虚偽通報で子供との関係を遮断されたケース――『児相利権』第5章1節より

 前の記事で紹介したケースは、子供との生活を守るために母娘が日本からオランダに逃亡した事例である。なぜ、オランダまで逃げたのか。それは、いったん児相に「一時保護」され、次いで養護施設に収容されたならば、そのまま長期間にわたって親子が隔離され続けることが多々あるからだ。ましてや、このケースでは、高裁でも最高裁でも、母親は敗訴していたからなおさらであった。

 では、日本においては、どういう事例があるだろうか。今回は、南出喜久治・水岡不二雄『児相利権』第5章の第1節に取り上げられている「児相被害者連絡会」の松島弘代表の事件を見ていこう。第1節は、松島代表自身の手記という形で事件について説明されている。

子供に対する指導方針について学校と対立する……教育権をめぐる対立

 この手記によれば、松島氏は、平成19(2007)年2月に再婚した。妻の連れ子であるY男(仮名)とも養子縁組により家族となった。このY男は、同年4月、静岡市立三保第二小学校に入学した。だが、「クラス担任であった女性教諭の教育方針が杜撰かつ独善的であって、宿題や勉強においてY男が戸惑う様子が早い段階から見受けられ」(268頁)た。

 5月になっても同じ状態が続いたので、松島氏は、「子供に対する指導方針や教育指針についての確認と要望事項の提案をした。この提案について、担任の女性教諭は校長や学年主任などを巻き込み、家庭訪問を何度も行い議論した。そして、約1月半たったころ、校長は松島氏の訴えを認め、改善を約束した。

学校から「両親による虐待を目撃した」との通報……平成19年7月23日

だが、文書での回答期日であった平成19(2007)年7月23日、「女性教諭のやり方には何ら問題はなく、今後も今までどおりのやり方を継続する旨の回答をよこし、同時に静岡市児相に対して『両親による虐待を目撃した』と通報を行った」(269頁)。この通報の法的根拠は、児童虐待防止法第6条である。

児童虐待防止法第6条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない

 学校は、この第6条の定める通告義務に基づき、「両親による虐待を目撃した」と児童相談所に通告したのである。しかし、この通告義務には、本書も指摘するように、密告を奨励し、日本を警察国家化する弊害がある。この第6条は、通告者が善意の人であるという仮定の下でつくられた規定であるが、しかし、この通告者性善説は現実とは全く合っていないようだ。本書は次のように述べている。

 虚偽通告の例は枚挙に暇ない。学校は、その教育方針等に親が異議を唱え、あるいは教師の指示に従わない児童がいる場合、その親が「子どもに対する虐待を行なった」と虚偽の虐待通告をして、児相に直接に子供を連れ去らせ、学校から遺棄する。この場合学校は、先に警察に通報したり相談したりするのではなく、警察を飛び越えて児相に「虐待通告」をする。なぜなら、警察であると証拠調べ等厄介なことが起こるが、児相はそれもなしにさっさと児童を連れ去っていって抹消してくれるからである。     69~70頁

 傍線部は松島氏のケースを念頭に置いて記されているが、学校が、教育方針に従わない子供を学校から排除するために、虚偽の虐待通告を行う場合が存在するようだ。他によくある場合としては、病院が子供に対する医療ミスを隠蔽するために、子供が親に虐待されたと虚偽の虐待通告を行う事例がある(70頁)。三番目に、悪意を抱いた近隣住民が、嫌がらせとして虚偽の虐待通告をする場合である。ともかく、通告義務が定められたため、虚偽の虐待通告が多数発生しているわけである。

児相による「一時保護」

 本件に話を戻すと、学校から「両親による虐待を目撃した」との通報を受けた静岡市児童相談所は、強制的に「一時保護」を行った。「一時保護」の法的根拠は、児童虐待防止法第8条第2項である。

第8条第2項 児童相談所が第六条第一項の規定による通告又は児童福祉法第二十五条の七第一項第一号 若しくは第二項第一号又は第二十五条の八第一号 の規定による送致を受けたときは、児童相談所長は、必要に応じ近隣住民、学校の教職員、児童福祉施設の職員その他の者の協力を得つつ、当該児童との面会その他の当該児童の安全の確認を行うための措置を講ずるとともに、必要に応じ同法第三十三条第一項の規定による一時保護を行うものとする

 この第8条第2項に基づき児相は一時保護を行ったわけだが、その理由は「親権者による身体的虐待」により「命の危険がある」ということだった。しかし、氏によれば、具体的証拠は何もなかったという。氏は次のように述べている。

 Y男の身体についていた6カ所の痣のうち、4カ所は担任教諭に受けた体罰によるものを含め、学校で付けてきたものであったり、自宅周辺で遊んでいて付けたりしたものです。児相は、確たる証拠も無いのに私達親権者を「傷害の犯人」だと断定したのです。 269頁
 
 担任教諭が体罰を行っていたという点には驚かないが、学校側が、体罰による痣まで親のせいにしていることには驚いた。この学校側の虚偽通告を、児相は一方的に信じた。子供を親から一時的とはいえ引き離すわけだから、親からもきちんと聞き取りする調査が必要なはずだが、児相は、松島夫妻との面談さえも拒否したという。児相はただ、「一時保護」した後に両親に電話して一方的に「一時保護」したとの報告をしただけだという。

 そもそも「一時保護」という形で子供を人身拘束するわけだから、「適正手続きの保障」を定めた「日本国憲法」第31条、逮捕における令状主義を定めた第33条などの趣旨からして、児相による「一時保護」は家庭裁判所の承認によって行う方がよい。そうでないとしても、児相は、「一時保護」を行うに当たっては適正手続きを行う必要がある。だが、「一時保護」の前にも後にも、親との面談さえも行わなかったのである。

「一時保護」の延長

 「一時保護」の期間は、「当該一時保護を開始した日から二月を超えてはならない」(児童福祉法第33条第3項)とされている。だが、「児童相談所長又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、引き続き」(同第33条第4項)一時保護を行うことができる。
 *現在は、第33条第5項が改正され、「一時保護」の延長が親の意思に反するときには家裁の承認が必要である旨、規定されている。「家裁の承認前項の規定により引き続き一時保護を行うことが当該児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反する場合においては、児童相談所長又は都道府県知事が引き続き一時保護を行おうとするとき、及び引き続き一時保護を行つた後二月を超えて引き続き一時保護を行おうとするときごとに、児童相談所長又は都道府県知事は、家庭裁判所の承認を得なければならない」。

 それゆえ、松島氏のケースでは、「一時保護」の期間が延長された。延長理由は、「所長が認めた」というだけであった。虐待の有無などについてなんの調査もしていなかった。これは、一時保護期間中に調査や家族の再統合への努力義務などが規定した児童虐待防止法第11条違反であった。

児童福祉法28条申し立てによる施設措置

ところが、児相は、「Y男への虐待」を認めない松島氏らに対して、児童福祉法第28条に基づく審判を申し立てた。この申立書は、9割がた事実無根の嘘で固められていたという。調査をしていないわけだから当然のこととなる。

しかし、家裁は、児相の言うことを信じて松島氏らを「虐待親」と捉え、児相側を勝たせた。そして、平成20年2月4日、高裁は即時抗告を棄却する。Y男は、「一時保護」から施設収容へ切り替えられた。

ただし、家裁は、児相に対して、次のような勧告をしていた。
「➀事件本人(Y男)が施設入所措置を早期に終了して家庭で健全な養育を受けることができるようにするために、②養父及び実母に対し適切な指導措置を採るよう、申立人(静岡市児相)に勧告することとする」(271頁)

しかし、この勧告は、➀も②もまったく無視された。児相は家族の再統合という目標を置かなかったし、松島夫妻に対する指導措置もとろうとしなかった。施設措置は、2年ごとに家裁の判断を待って更新されることになっているが、家裁は児相の主張を鵜吞みにして、隔離を続けた。その結果、完全隔離が8年近くも続けられている(松島氏手記の時点)。

「児童福祉法第28条申立」審判に敗れた松島氏は、平成21(2009)年7月23日、東京地方裁判所に国家賠償訴訟を提起した。この訴訟も、平成25(2013)年8月29日、敗訴した。これを受けて、控訴したが敗訴した。最高裁に上告したが、平成26年12月に棄却された。

完全隔離とはどういうものか

隔離が続く8年間、児相は、松島夫妻との面談を拒否し続けている。Y男は何度も「家に帰りたい」と児相職員や施設職員に訴えていたが、そのことは隠され続けていた。「通っていた小学校の保健教諭などに泣いて訴えていた記録まであるのに、子供の意思をまるっきり無視し、児相は、親権者との面会や手紙・電話の通信も8年以上にわたって全面的に禁止してきた」(373頁)のである。

 ひどい話だが、Y男に松島氏の父親の病気見舞いをさせてくれという願いも、児相は認めなかった。平成21(2009)年4月10日、氏の父親は肝臓癌で入院した。当日、氏は、静岡市の児相に電話して事情説明を行い、14日には児相を訪ねて児相の所長と協議したが、結局、見舞いの件を拒否されてしまう。そのままY男による見舞いは実現することなく、氏の父親は平成23年10月12日に死亡する。その日のうちに、氏は、父親の葬儀などへY男が参列できるようにしてほしいとの意思を児相に伝えた。だが、児相はこの願いも聞き入れなかった。「児童相談所として、葬儀への参列は見合わせることが本人の福祉、利益を優先させることと判断いたしました」と回答してきたのである。

このことについて、氏は次のように述べている。
「福祉」の名をかざして、祖父に最後の別れもさせないような血も涙もない措置は、我が国の伝統的な条理に反しますし、私の親権・教育権を侵害する、著しい不法行為です。
274頁

 
まさしく、児相は親の親権・教育権を侵害しているのである。児相問題とは、親の親権・教育権侵害問題である。

隔離は徹底していたようだ。この手記の最後の方に次のように記されている。

Y男は今年中学2年生のはずです。
しかし、そうした我が子の基本情報すら、全く私たちに連絡すらありません。東日本大震災や大地震の時の安否情報もありません。
 国賠裁判中に裁判長が静岡市の被告代理人弁護士に「安否情報くらい両親に伝えるように」と法廷で註してくださいました。ですが、児相はそうした裁判所の指示すら無視し、全くY男に関する情報を私たちに連絡してきません。 279~280頁


「児相被害者連絡会」に寄せられる体罰、投薬などの情報

 安否情報さえも知らせないという部分には驚いたが、松島氏が立ち上げた「児相被害者連絡会」に寄せられたという情報の部分は深刻である。

 児相が、児童を保護者から隔離したうえに、保護者の意向を全く無視した監護を押し付け、それで児童が言うことを聞かなければ、児相が体罰を加えたり個室に閉じ込めたりして懲罰を与える実態が明らかになりました。もっと酷いものになると、精神科医が精神薬を処方して食事に混入して投与し人格を変えられてしまうことも日常茶飯事ということです。子供が「家に帰りたい」などと発言しようものなら、二度とそのような言動をさせないように徹底的に抑圧されます。このことについても、施設を出所した人から、「家に戻りたい」と言った場合の子供に対する具体的な懲罰方法等が明らかにされてきています。 278頁
 *二つ目の傍線部に対応することは、山脇由貴子『告発 児童相談所が子供を殺す』(文春新書、2016年)に次のように記されている。
親が同意して施設に入った子どもには、家族が会いに来る。しかし、親が施設入所に反対している場合、親の面会は許可されない。子どもに会いに来て、強引に子どもを連れ去ってしまうかもしれないからだ。  165頁

 ここに記されていることが事実であるならば、虐待されている子供を助けるために児相が「一時保護」し、次いで施設入所措置を行ったはずなのに、そこで虐待しているならば、なんのための児童虐待防止法や児童福祉法なのかということになろう。そして、何のための児相であり、何のための養護施設なのかということになろう。

親の教育権VS国家の教育権

 以上、「児相被害者連絡会」の松島代表のケースを紹介してきたが、ともかく、児相問題とは、親の教育権を中心にした親権をどのように認めるか、制限される場合があるとすればどのような仕組みの下に制限するかという問題なのである。端的には、親の教育権と国家の教育権との対立ともいえよう。

 確言はまださけておくが、親の教育権と国家の教育権との対立と折り合いという観点から、児相問題についてもう少し見ていこう。

 アメリカでは、トランスジェンダーへの理解推進教育(実態はトランスジェンダーを増加させる教育へ暴走している)を子供に対して行おうとする州政府とそれをストップさせようとする親とが、対立している。まさしく、国家の教育権と親の教育権が衝突しているわけである。日本の児相問題と相通ずる点があるものと思われる。

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