「ブチャ虐殺」の犯人と戦時国際法--ウクライナ軍によるジェノサイドの可能性

「ブチャ虐殺」事件により、国連人権理事会からロシアを追放

 ウクライナとロシアとの停戦交渉が進展するかもしれないと期待していた4月4日、突如、ロシア軍がキエフ郊外の町ブチャで多くの民間人を虐殺したというニュースが報じられた。虐殺の例として真っ先に報じられたものは、410人の民間人の遺体が、ブチャの街路に放置されているというものだった。その映像をテレビで見たけれども、一定間隔でかなり整然と配置された遺体に違和感を感じたことを憶えている。ロシアが虐殺することはあり得るだろうが、その映像を見てなんだかおかしな話だなぁと思った。

 4月4日当日、ロシアは、ブチャの件はウクライナの自作自演だと主張した。そして国連安保理事会で、「ブチャ虐殺」について話し合うことを提案した。だが、議長国の英国は、この提案を拒否した。ロシアは、第三者組織を作って現地調査すべきだといったが、却下されてしまう。

 そして、事実関係の調査もしないまま、4月7日、国連総会は、ロシア犯行説を基にロシアを国連人権理事会から除名する決議案が提案される。

 この決議は、賛成93、反対24、棄権58、無投票18で、3分の2以上の賛成を得たということで可決された。国連加盟国は193か国だから、半数に満たない国の賛成でロシアは理事会から追放されたわけである。このとき、中国は、現地調査が必要だとして反対したという。
*ちなみに、3月2日のロシア非難決議は、賛成141、反対5、棄権35、無投票12で可決された。また、3月24日の「ウクライナへの人道支援決議」は賛成140、反対5、棄権38、無投票10で可決されている。

「ブチャ虐殺」の犯人は誰か

 しかし、なにゆえに、イギリスは、ロシアの提案を拒否したのであろうか。第三者組織を作って現地調査すべきだというロシア提案は当たり前のことだが、なぜ、拒否したのであろうか。なんともおかしな話である。虐殺した犯人として非難されている側が調査を要求し、非難している側が調査を拒否するとはどういうことであろうか。本当にロシア軍が犯人なのであろうか。こういう疑問がどうしても出てきてしまう。

 この「ブチャ虐殺」については、ツイッターやブログの情報、動画情報などを調べてみたが、そのなかで、田中宇《市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア》という記事に遭遇した。
https://tanakanews.com/220408bucha.htm

 この記事は、うまく「ブチャ虐殺」について整理しているように感じた。そこで、この記事に基づき、まず「ブチャ虐殺」の概要を時系列に沿って捉えておこう。

3月30日、ロシア軍がブチャを撤退した 

 ブチャは、「キエフの中心街から北西10キロ離れた、人口3.5万人の町」である。ブチャでは、2月24日のウクライナ侵攻後まもなくから、戦闘が行われていたが、停戦交渉が進んだため、ロシア軍はキエフ周辺から撤退することとし、3月30日、ブチャから完全撤退した。

 ロシア軍が撤退すると、3月31日、ブチャの市長は勝利を宣言し(ロシア側の自主撤退が事実だが)、「戦闘で破壊され瓦礫が散らかっているブチャの街路をきれいにしていくと発表した」。この時点では、市民が殺害されたとか、市街に遺体が転がっているとかは全く言っていなかったことに注目すべきである。ウクライナ側は、4月2日にブチャ市街を映した動画を流しているが、そこにも遺体は映っていなかった。

4月2日、国家警察部隊と極右民兵部隊がブチャに進駐した

 しかし、4月2日、ウクライナの内務省傘下の国家警察部隊がブチャに入った。「国家警察の部隊は、ブチャに露軍が駐屯していた時に犯した戦争犯罪について調査したり、露軍に協力した者たちを探して取り締まったりするのが進駐の目的だった。国家警察と一緒に、同じ内務省傘下の組織である極右民兵団(アゾフ大隊やThe territorial defence battalions)の部隊も同行した」。

 極右民兵団の1部隊が発表した動画では、ブチャの街頭を巡回中に、「民兵の一人が上官に『青い腕章をつけていない奴らを射殺して良いですか』と尋ね、了承をもらっているやり取りが収録されている」。青い腕章はウクライナ側を支持する市民がつけており、白い腕章はロシア側を支持する市民がつけていた。いずれの腕章もつけてない市民は中立の立場をとることを示していた。それゆえ、この動画の意味は、極右民兵団が、ロシア側または中立的な市民を射殺していたことを示すものであった。

4月4日、突然、「ロシアの戦争犯罪」が持ち上がった

 ところが、4月4日、突然、ウクライナ国家警察部隊は、「ブチャの街頭でたくさんの市民が虐殺され、手を後ろに縛られたり、拷問された後に殺された遺体もたくさんあり、露軍が撤退前に市民を殺していったに違いないという趣旨の動画を発表し始めた」。私も、テレビで、手を後ろ手に縛られた遺体が、整然と一定間隔で街路に横たわっている映像を見た。

 テレビの説明では、殺された410名の市民たちは後ろ手に縛られたうえで後ろから射殺されたのであろうとの説明であった。その整然さに不自然さを感じたことを思い出す。

 この動画発表後、欧米側のマスコミはとびついた。「ロシアの戦争犯罪」なるものを宣伝し始めた。前述のように、ロシアが国連安保理でこの事件に関する調査を提案したが、拒否された。一挙に、ロシアは再び大悪人にされていった。

ウクライナ側のプロバガンダの綻び1……遺体のつけていた白い腕章

 しかし、ウクライナ側のこのプロパガンダには、いくつもの綻びがあった。一つは、殺された市民が、ロシア軍の支持者であることを示す白い腕章を巻いていたことであった。ウクライナ側は記者団をロシア軍が使っていた建物の地下室に案内し、拷問されて殺されたとされる市民の遺体を見せた。ところが、その遺体は白い腕章をつけていた。ロシア軍が自己の支持者たちを殺すのはおかしな話だ。極右民兵団が、ロシア軍撤退後にブチャに進駐してきて、「街頭で見つけたり、市民の住宅を順番に訪問して見つけた白い腕章をつけた市民を、建物の地下室に連行して拷問して殺した」と考えられよう。マスコミを案内する前に、ウクライナ側としては白い腕章を遺体から外すべきだったのだが、そこまで気が回らなかったか、外し忘れたのであろうと推測できる。

プロバガンダの綻び2……ロシアが配給した食料袋

 もう一つの綻びは、ロシア軍が市民に配布していた星印の付いた緑色(正確には暗緑色)の紙袋が動画に映りこんでいたことだ。ロシア軍は、この食料袋をブチャ市民に配っていた。ブチャは正式に占領されていたわけでもないであろうが、正式の占領地であるとすれば、戦時国際法上、占領者であるロシア軍は占領地住民の最低限の生活の面倒を見なければならない。それゆえ、占領者としての義務を果たすという位置づけだったのかもしれない。ついでに言えば、正式占領ということになれば、住民としてはロシア軍の命に基本的に服さなければならないことに注意しなければならない。場合によっては、戦時叛逆として罰せられる場合もある。

 法的な位置づけはともかくとして、殺された市民たちが紙袋を持っていたということは、彼らは少なくとも反ロシア派ではなく、中立派またはロシア支持派であったことを意味する。食料まで与えた彼らをロシア軍が殺すことは考えられない。彼らは、極右民兵団に、食料袋を持っている親ロシア派とみなされ、虐殺されたのであろう。ウクライナ側は、これらの食料袋も始末しておくべきだったのだが、始末し忘れたのであろう。

食料袋の存在は、マスコミの嘘を暴露している

 食料袋の存在は、また、別のことを示唆している。田中氏は次のように言う。

 露軍の食料袋の存在は、ロシア国境からキエフまでの補給路を、露軍が余裕を持って運営していたことを意味する。米国側のマスコミは、根拠もなく「露軍は苦戦しており余裕が全くなく、キエフまでの補給路すら確保できず、燃料が足りず、兵士は飢えている」などと喧伝してきたが、こうした無根拠な報道がウソであることが、動画の中で市民の遺体の隣に写り込んでしまった食料袋から見て取れる。

 傍線部のように、ロシア軍は、補給がうまくいっていないわけではないといえる。ロシア軍の補給体制は出鱈目であるとの宣伝が行われているが、そうではないようだ。食料袋の存在からも、このような補給体制についての推論が成り立つことに注目しておきたい。

 ともあれ、マスコミが嘘だらけだということは、このあたりからもよくわかるのである。

「ブチャ虐殺」は、ウクライナによるジェノサイド?

 少し別の方向に話が流れたが、話を本筋に戻すならば、「ブチャ虐殺」の犯人はウクライナの極右民兵団である。彼らが、おそらく無抵抗の自国民を殺したのである。とすれば、極右民兵団は戦時国際法以前に、国内法の殺人罪を犯したのである。まずは、文句なしに、殺人罪で裁かれるべきである。

 また、国際法的には、ジェノサイド条約が適用できるかもしれない。この条約は、戦時でも平時でも適用されるし(第1条)、公務員にも民間人にも適用される(第4条)。ジェノサイド(集団殺害)とは国際法上の犯罪であるとされる(第1条)。その定義は、第2条に次のように記されている。
 
第2条 この条約では、集団殺害とは、国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意図をもって行われた次の行為のいずれをも意味する。
 a 集団構成員を殺すこと
 b 集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること
 ……


 行為の種類としては、5種類挙げられているが、ブチャでは「a 集団構成員を殺すこと」が行われた。問題は、「国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意図をもって」という要件が当てはまるかである。殺害するかどうかの峻別基準は、ブチャでは青い腕章を巻いていたかどうかであった。白い腕章を巻いていた市民、青いのも白いのも腕章を巻いていなかった市民が殺されていった。もう一度いうが、青い腕章はウクライナ派であること、白い腕章はロシア派であることの証明であるから、反ウクライナ派又は中立派を射殺していったということになる。明らかに、峻別基準は「国民的、人種的、民族的」であったということができる。

 しかも、戦闘があったときならまだしも、ロシア軍が引き上げた後の戦闘がないときに、殺害が行われたのであった。それゆえ、「国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意図をもって」という要件がとりあえず当てはまるといえよう。

 と考えてくれば、「ブチャ虐殺」がウクライナ軍によるものだとすれば、ウクライナによるジェノサイドという犯罪が成立する可能性があるということになる。

仮にロシア軍が犯人の場合どう解釈できるか

 では、マスコミが言うように、ロシア軍が犯人であるとすれば、どういうことになるであろうか。まず、白い腕章を遺体がつけていたこと、遺体の周辺に緑色の食料袋があったことは、無視しなければならなくなる。次いで、戦闘の中で、あるいは占領中に殺害が行われたとみなければならなくなる。とすれば、殺害理由は軍事的なものであるということになり、「国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意図をもって」という要件は、当てはまりにくくなる。つまり、ジェノサイドだと批判することは極めて困難になろう。

 戦闘の中で、あるいは占領中に民間人が殺害されたとすれば、どういうケースが考えられるであろうか。最も考えられるケースは、民間人が制服も身に付けず公然と武器を携帯しないで戦った場合である。その場合には、交戦者の要件を満たしたことはならないから、捕らえられた後に、捕虜資格さえも認められず、裁判もなしに銃殺されても文句をいうことはできないということになる。

 そもそも、ゼレンスキーは、民間人に銃を配り、犯罪者を釈放して彼らにも武器を持たせたという。交戦者要件を一番ゆるく認めた場合にも、「公然と武器を携行していること」、「戦争の法規及び慣例に従って行動していること」という二要件が求められる。だが、犯罪者に対してさえ武器を与えるような形をとっているならば、交戦者要件を満たさずに戦う民間人が多数現れたと考えられよう。つまり、ウクライナ側は、本当に戦時国際法を守っていないのである。
  *捕虜資格の問題については、拙著『自衛戦力と交戦権を肯定せよ』(2017年、自由社)10頁以下、特に20~29頁、参照。

ウクライナは、戦時国際法を無視して戦っている

 戦時国際法違反のことをふれたが、そもそも、ウクライナは戦時国際法を全く守る気がない。民間人を「人間の盾」として、ロシア軍の攻撃を阻止している。ロシア軍の侵攻が遅れたのは、一つには、ロシア軍側が戦時国際法をできるだけ守って戦おうとし、ウクライナ側が戦時国際法無視の乱暴な戦い方をしたということが関係している。

 軍事施設と軍人を攻撃するのは合法だが、軍事と関係のない民間施設や民間人を攻撃するのは違法である。だが、民間施設であっても、そこに大砲などを持ち込んで基地とすれば、当然に砲撃を受けることになる。また、軍人のそばに居る民間人は、一緒に砲撃されて殺されても何の文句も言うことはできない。

 ちなみに、かつて沖縄戦で壕に立てこもった日本軍は火炎放射を浴びて多数殺された。そのとき、民間人を壕から追い出していたが、これは、民間人の安全をはかる行為だった。戦後の日本人は、この日本軍の行為を非道な行為として批判したが、それは戦時国際法の素養がないからである。

 話をウクライナに戻すと、ロシア軍が劇場を攻撃したとか、病院やホテルを攻撃したとか、民間人が死亡したとか言って非難されているが、それだけでは、ロシア軍が戦時国際法違反を犯したとは言えない。ほとんどのケースでは、ウクライナ軍は民間施設を軍事基地として用いたり、民間人と自分たちを分離せずに民間人を「人間の盾」にして防衛する戦い方をしたりしている。だから、ロシアの攻撃は合法であるし、ウクライナ側の戦い方の方が戦時国際法を守らない戦い方なのである。

 いや、ここまでならば、劣勢の軍ならば、一定程度、一般に行っていることであるともいえる。しかし、これらに加えて、ウクライナ軍は、自国の民間施設を破壊し、自国民を殺害して、ロシアがやったと宣伝することさえしているようである。
 例えば、以下の動画を参照されたい。

2022.4.16【ウクライナ】東部の鉄道駅へのミサイル砲撃の真相とは【及川幸久−BREAKING−】
https://youtu.be/0XY1FYPudt0

2022.4.4【ウクライナ】ウクライナ に侵入したスペイン人ジャーナリストの勇気ある現地報道【及川幸久−BREAKING−】
https://youtu.be/p6HlbilOUz0

 話を大きくしてしまったが、「ブチャ虐殺」の犯人はウクライナ軍である。自分たちがやってしまった罪をロシア軍に着せたのである。田中論文を読まれたい。

 このように出鱈目かつ違法な戦い方をしているウクライナ軍に、世界中が戦争に巻き込まれ、滅亡してしまうかもしれない状態は、本当に理不尽である。ウクライナ戦争の本質は米露戦争である。アメリカは、戦争をやめる決心をしてロシアとウクライナの停戦交渉をまとめるべきである。

 転載自由
《戦時国際法の教育の必要性》2022年4月26日記

 本記事を書いた後、マスコミのいうことが情緒的であり、戦争の常識、軍事学や戦時国際法の常識から遠すぎることが気になった。マスコミの姿勢は、ブチャやマリウポリで民間人が殺された、というだけでロシア軍が戦争犯罪を犯したと捉えるものである。そもそも、ウクライナ犯行説とロシア犯行説とが対立しているわけだから、二つの説をともに紹介することが当然とるべきマスコミの態度である。しかし、日本のマスコミは、ロシア犯行説だけをもっぱら流すだけである。コロナ騒動でも米大統領選でも一方の説だけを流していたが、こういう偏った報道姿勢では、日本がとるべき進路について、きちんとした議論ができなくなる。結局、国を誤ることになろう。
 
 しかし、もう一度言うが、民間人をロシア軍が殺したという情報だけでは、ロシア軍が戦争犯罪を犯したことにはならない。どういう状況で民間人が殺されたかで、戦争犯罪になったり、ならなかったりするからである。民間人が劇場を砲撃されて殺されたとしても、その劇場が基地として使われていた場合には、劇場に対する砲撃は合法なものとなる。その場合における民間人殺害は戦争犯罪になりようがないのである。

 そういう判断を行うには、戦争を報道するジャーナリストたちが、軍事学や戦時国際法の素養を身に付けている必要がある。いや、日本の政治家たちにも、それらの素養が必要になろう。多くの場合、日本のジャーナリストや政治家は、それらの素養を身に付けていない。改めて、戦時国際法に関する教育が必要だと感じた。実は、日本も批准しているジュネーブ捕虜条約は、捕虜をめぐる原則的な事柄に関して国民一般にも教育することを求めている。日本はこの条約を全く守っていないのである。

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