親の懲戒権廃止と家族に関する公民教科書の現状……ともに教育基本法と国際人権規約(B規約)に反する

BLMの「アボリショニズム」と懲戒権廃止

 この間、ウクライナ戦争の話ばかり書いてきた。この戦争の一つの意義は、家族や国家、伝統を否定しようとするバイデンのアメリカが主導する欧米と、それらを守らんとするロシアとが争うイデオロギー戦争であるという側面があることである。日本は欧米側に立ち、グローバリズムの推進とともに、家族や国家、伝統の破壊に邁進している。その中でも、私が今一番恐れているのは、民法改正によって親の懲戒権を奪い取ろうとする策動のことだ。ほぼ間違いなく、親から懲戒権を奪えば、日本の家族の解体は決定的に進むだろう。それゆえ、3年前に本ブログに《親の懲戒権廃止に断固反対する――これは家族解体の宣言となる》という記事を書いた。

また、前回は、福田ますみ『ポリコレの正体』についての紹介記事を書いた。そのなかで次のように記した。

ブラック・ライブズ・マターの主張は、「アボリショニズム」と言われるものであり、廃止主義または廃絶主義ということになる。具体的には、警察や監獄を廃止せよ、との主張となる。なぜ、こういう主張が出てくるのか。

 傍線部に注目されたい。BLMの「アボリショニズム」すなわち廃止主義というものが、私には印象的であった。懲戒権廃止と重なって見えるからだ。警官が黒人の犯罪者を取り締まろうとするときに殺してしまったから警察を廃止せよ、警察予算を削減せよという主張は、親が懲戒の行き過ぎで子供を殺してしまう事件があったからすべての親から懲戒権を奪おうという主張と随分似ている。ともに、アナーキズムの主張である。

この問題を研究したいのだが、とりあえず、私が17年間あるいは30年以上かかわってきた中学校公民教科書における家族論の記述について検討し紹介していきたい。問題を把握していく取っ掛かりになるように思うからだ。

令和元年度検定中学校公民教科書を分析検討する

紙数の関係もあり、ここでは、令和元(2019)年度検定合格教科書についてみていきたい。令和元年度検定中学校公民教科書は、自由社、育鵬社、東京書籍、日本文教出版、教育出版、帝国書院の6社6種である。前回までは清水書院が検定申請していたが、今回は撤退した。かつて平成16年度検定では8社存在したが、そのうち日本書籍新社、大阪書籍、清水書院の3社が撤退したから、大きく様変わりしたものである。

6社の家族に関する記述については、以下の3項目に焦点をおいて分析した。

評価項目
➀家族の記述量……家族独自の単元があるか否か、家族について小見出しを設けているかどうか、家族独自の単元を設けていない場合には何行の記述か
②家族の定義……「共同体」としているか、「基礎的な社会集団」としているか、単なる「社会集団」としているか
➂親と子供の関係の在り方……指導被指導関係・保護被保護関係としているか対等関係としているか、懲戒権の存在を記しているか


親の懲戒権を記すのは自由社のみ

 親の懲戒権廃止問題と直接関係するのは、➂の評価項目である。➂について6社の教科書を検討してみると、親が懲戒権を持っていることを記すのは自由社だけである。他の5社は、懲戒権どころか、親が子供を教育する、あるいは指導するということさえも記さない。現行民法には、明確に820条に親の教育権、822条に懲戒権が記されているにもかかわらず、そのことを教えようとはしないのだ。言い換えれば、親と子供の関係を指導被指導関係・保護被保護関係として捉えないのである。

 ここからすぐにうかがえるのは、公民教科書の思想からは、懲戒権廃止に対する抵抗は生まれようがないということだ。いや、それどころではない。公民教科書の立場は、家族を解体しようとするものである。

家族について共同社会と記すのも自由社のみ

 評価項目②家族の定義について6社の教科書を検討してみると、最も典型的な共同社会である家族について、「共同社会」ときちんと記しているのも自由社だけである。他の5社は言えば、「基礎的な社会集団」とするのが育鵬社と帝国書院の2社であり、東京書籍、日本文教出版、教育出版の3社は単に「社会集団」と定義するだけである。きわめて軽い定義なのである。

家族の単元を有するのは自由社と育鵬社のみ

 この軽さは、評価項目➀家族に関する記述量に関しても見て取ることができる。今や、6社中4社は、家族のために特別な単元を割くことをしない。3社は10行前後しか家族論に充てていない。教育出版に至っては、4行しか充てていないのである。

 家族の単元を設けているのは自由社が2単元、育鵬社が1単元であり、2社だけである。恐ろしい話である。

細かい話をすれば、平成27(2015)年の採択戦に参加した7社の公民教科書の中では、自由社と育鵬社以外に帝国書院も家族の単元を設けていた。だが、なぜか、帝国書院は、令和2(2020)年度採択戦では家族のための特別な単元をなくしてしまったのである。

グローバリズムに立った平成20年学習指導要領

 なぜ、ここまで家族教育が無視されることになっていったのか。それは平成20(2008)年3月の学習指導要領改訂に基づく。改訂指導要領を読んだとき、私は驚愕した。指導要領から「家族」と「地域社会」という言葉が消えていた。パブリックコメントの段階で、私も「つくる会」も二つの言葉の復活を訴えたが、一顧だにされなかった。今思えば、この平成20年=2008年という時期は大事な時だったという気がする。

 さて、この指導要領を見て、今後は「家族」論を展開しなくても検定合格できるようになるなと私は予想した。この予想は見事的中した。

 歴史を振り返ると、何度も言ってきたことだが、かつては30頁も40頁も家族論に割いている教科書が存在した。しかし、昭和56(1981)~58年度使用版以降、劇的に家族論の分量は減少していく。昭和53~55年度使用版では平均21頁の分量が学論に割かれていたのだが、昭和56(1981)~58年度使用版になると、平均7頁に激減する。以後、少しずつ家族論の分量は減少し、平成18(2006)~23年度使用版では平均3頁に減少していた。ただし、すべての教科書は、独立した家族に関する単元を必ず設けていた。だが、新指導要領とともに、一挙に家族の単元を設ける教科書が少数派になってしまったのである(拙著『安倍談話と歴史・公民教科書』自由社、2016年、246頁以下)。

 この平成20年指導要領では、社会科の「1目標」の箇所でも、〔公民的分野〕の「1目標」の箇所でも「グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指す」と宣言されている。そして、〔公民的分野〕の「2内容」の箇所で「少子高齢化」や「情報化」とともに「グローバル化」が盛んに強調されたのである。最新の平成29年版でも、同じことが展開されている。

 私は平成22年度検定と令和元年度検定に立ち会ったが、特に2度目の検定を通じて、グローバリズムの押し付けを異常なまでに実感することになった。迂闊なことに令和2年=2020年になってようやくわかったことだが、平成20年の指導要領改訂とは、公民教育の世界におけるグローバリズムの本格的導入だったのである。グローバリズムは、家族と国家を潰しながら前進する。もともと日本の教育では昭和20年代以来国家論は存在しないが、グローバリズムの導入に伴い、家族論も不要なものになったのである。その結果が、家族に関する単元の消滅という事態である。

国際人権規約(B規約)と教育基本法に反する民法改正と公民教科書の現状

しかし、国際人権規約(B規約)第23条第1項は、次のように規定している。

家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。

「社会の自然かつ基礎的な単位」とは、家族が利益社会ではなく共同社会であることを意味している。にもかかわらず、公民教科書のほとんどは、共同社会であることを記さないことに注意されたい。明らかに国際人権規約(B規約)違反である。また、23条1項全体の趣旨から知られるように、この条約は家族という存在を重視しており、家族が「国による保護」を受ける権利を認めている。とすれば、家族という存在についての十分な教育を国が保証しなければならないであろうといえる。しかし、家族のための単元さえおかない教科書が多数派である。この点で、日本の公民教科書の現状は、少なくとも条約の趣旨に反する状態だといえよう。

 また、教育基本法第10条は次のように規定している。

 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生徒のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。


 教基法10条1項は、このように家庭教育の重要さ、親による子供の教育の重要さを説いている。そして、2項は、「保護者に対する学習の機会及び情報の提供」を説いている。そればかりか、「家庭教育を支援するために必要な施策を講ずる」と説いている。それゆえ、公民教育においても、家族の重要さ、家庭教育の重要さ、親の教育者としての側面について教える必要があろう。とするならば、指導要領から「家族」の言葉を削除することはしてはいけないことだったのではないか。

 また、1項がいうように、親たちが「子の教育について第一義的責任を有する」のであれば、当然に懲戒権も保持しなければならないのではないか。

 というように考えてくると、懲戒権廃止の民法改正も、公民教科書の現状も、ともに国際人権規約(B規約)に反しており、教育基本法に反していると言えよう。


資料 家族に関する令和元年度検定合格公民教科書6社の記述

評価項目
➀家族の記述量……家族独自の単元があるか否か、家族について小見出しを設けているかどうか、家族独自の単元を設けていない場合には何行の記述か
②家族の定義……「共同体」としているか、「基礎的な社会集団」としているか、単なる「社会集団」としているか
➂親と子供の関係の在り方……指導被指導関係・保護被保護関係としているか対等関係としているか、懲戒権の存在を記しているか

自由社
➀家族の記述量……2単元4頁
②家族の定義……共同社会
③大人と子供の関係の在り方――指導被指導関係、保護被保護関係……有

➀②➂第1章第1節単元6【家族の役割と形態の変化】
■家族の役割
家族は、社会集団 のなかで最も小さな単位の共同社会であり…… 親は、子供に言葉を身につけさ せ、人格をはぐくんでいきます。子供や孫に慣習と文化を伝え、 社会生活のルールやマナーをしつけるという役割をになっています。 24頁
単元7【民法と家族】

■民法と家族
家族の規定は民法で決められています。民法は、親が未成年の子供を監護し、教育する権限(親権)をもち、その義務を負うことを定めています(民法第 820 条)。監護とは子供の身体を監督・保護することであり、教育とは子供の人格の完成を はかることです。……
そして、養育上、必要と思われる範囲内で叱ったり、罰をあたえることができます(懲戒権)。
 26頁

育鵬社
➀家族の記述量 1単元2頁
②家族の定義=最も身近で基礎的な社会集団
➂親と子供の関係の在り方……なし

➀②第1章第3節単元1【家族の一員としての私たち】
■家族の役割
 家族は、社会的存在としての人間が協力して生きる上で最も身近で基礎的な社会集団であり、……
 私たちは、まず家族の中で育てられ、人格をはぐくみ、慣習や文化を受け継ぎ、社会で生きるためのルールやマナーを身につけます。 26頁

東京書籍
➀家族の記述量……第1章1節で13行(実質7行)
・副題と小見出しとして家族の語
②定義……「最も身近な社会集団」のみ
③親と子供の関係の在り方……なし

➀②
第1章3節「現代社会の見方や考え方」
単元1【社会集団の中で生きる私たち】
■家族と地域社会
 私たちは、さまざまな社会集団の中で生活しています。そのうち、生まれて最初に加わる、最も身近なものが家族です。私たちは家族の中で支え合いながら成長し、社会集団での基本的な決まりを身につけます。日本国憲法は、家族についての基本的な原則として、「個人の尊厳と両性の本質的平等」(第24条)を定めています。 (24頁)

日本文教出版
➀家族の記述量……単元なし、小見出し扱い、11行
②家族の定義……社会集団の一つ
③親と子供の関係の在り方……なし

➀②
第1編3節「現代社会の見方・考え方」
単元1【社会における私たちの決まりの意義】
■社会的存在としての人間
(前略) 人間はだれも、一人では生きていくことはできません。家族や地域社会、そして国家の一員であるとともに、学校や職場などに属し、その生活の場を広げていきます。このように人間はさまざまな社会集団と関係をもちながら生きています。こうしたことから、人間は社会的存在といわれています。
■家族と社会
 人間が最初に所属する社会集団である家族は、本来いつくしみと思いやりにみちた最小の社会集団です。家族は、休息ややすらぎの場をもたらし、たがいに個人として尊重し協力し合うなかで社会のルールを学びます。このように、家族は個人と社会を結びつける重要な役割を果たしています。核家族が増え、高齢社会をむかえた今日では、地域の人々がたがいに助け合うことが、生活をより豊かなものにしていきます。
 日本国憲法は、家族生活の根本として、個人の尊厳と両性の本質的平等を定めています。家族生活をたがいに協力して維持していくことは、男女がともにあらゆる分野に参画していく社会(男女共同参画社会)の基礎になります。(22~23頁)

教育出版
➀家族の記述量・・・ないに等しい
 単元なし、4行
②家族の定義・・・社会集団
③親と子供の関係の在り方……なし

①②
第1章3節「私たちがつくるこれからの社会」
単元1【さまざまな人と生きる――対立から合意へ】
■人と人とをつなぐもの
 生まれて最初に出会うのは、家族です。私たちは、家族を中心とした家庭生活の中で言葉を覚え、基本的な生活習慣を身につけていきます。さまざまなかたちをもつ家族は、その後の成長の過程でも、常に生活の土台となる社会集団です。 (26頁)


帝国書院
➀社会(政治、経済以外)における家族の叙述の比重……小見出し8行のみ
②家族の定義……「最も基礎的な社会集団」
➂親と子供の関係の在り方……なし
➀②
第1部第2章単元1【社会的存在として生きる私たち】
■私たちと家族・地域社会
 私たちにとって家族とは、最も基礎的な社会集団です。私たちは家族との「団らん」のなかで「休息や安らぎ」を得て、明日への活動の精神的な力を養っています。また、言葉や社会習慣、社会のルール、愛情や道徳など人間のあり方を身につけます。家事、育児、家族の看病介護といったものも、互いの存在を大切なものとして支え合うという大切な家族の役割です。 (18頁)


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